エンジニアとしてキャリアアップするには、日常的な業務においても常に改善の意識を持つことが大切です。既存業務の在り方やフロー、内容を改善し、効率化や生産性の向上につなげる経験は、転職活動においても強みとしてアピールしやすいポイントとなります。
とはいえ「既存業務の改善って、何から始めればいいんだろう」と疑問を持つ方も多いでしょう。そこで、電機メーカーにて20年以上勤務され、職業訓練校でのセミナー講師も務める青田さんに業務の改善方法について語っていただきました。
【この記事は、こんな方におすすめです】
エンジニアとして成長し、キャリアアップしたい方
既存業務の見直しを行い、効率・生産性を上げたい方
ライター:青田ちひろ
エンジニア出身のキャリアカウンセラー。理系の大学院修士課程を修了後、電機メーカーに20年以上勤務。職業訓練校にて、求職者ならびに在職者のエンジニアに対して、セミナー講師を務める。エンジニアを取り巻く環境を考慮し、様々な視点からエンジニアとしてのあり方をレクチャーする。キャリアコンサルティング技能士、2級ワープロ技士、表計算技士、色彩検定、色彩講師、アロマテラピーインストラクター等、多彩な技能を持つ。
エンジニアとして、とっても大事な要素が「いちゃもん」を付けることです。なぜならエンジニアは新しい製品の機能を考える時に、従来品に満足していてはいけないからです。
「これで満足しちゃったら終わり!」それが、エンジニアです。
あなたがエンジニアとしてもっと成長したいのなら、問題点を見つけましょう。
問題点は身の回りにたくさんあるのに、気がつかないのが普通です。
あなたのまわりに問題点はありますか?
開発体制の問題、開発ツールの問題、開発納期の問題、開発環境の問題、上司の問題など、見つけようと思えばいくらでも見つかるのではないでしょうか?
もし問題がなかったとしても、強引に問題を探しましょう。それはあたかも「いちゃもん」を付けるようなものです。
しかし問題点とは、発見すれば対応でき、最終的に「便利」につながります。
今日から、積極的に問題点を発見しましょう。
ナレッジコラムシリーズ
エンジニアにおける問題のとらえ方
エンジニアとして、どのように問題をとらえたら良いのでしょうか?問題が発生したら、それはもちろん問題です。
問題がなかったら、問題も見過ごしている、あるいは問題となりえる事柄が顕在化していないといった可能性があり、それはそれで問題です。
エンジニアならば、積極的に問題を発見しなくていけません。
「問題点」とは何か?
ここまで幾度となく「問題」「問題点」と述べてきました。まずは問題とは何かを考えてみましょう。
問題とは「あるべき姿」と「現状」とのギャップです。対象は問わず、「あるべき姿」あるいは「あってほしい姿」と「現状」が違っていたら、それはすなわち問題なのです。完全に解決はできなくても、解決の方向に進まなくてはいけません。
エンジニアであれば、もっと良くなる方法を考えます。つまりは、常に何かにいちゃもんをつける姿勢が大事なのですね。こうした姿勢は、常に不満・文句を言っていると誤解されやすく「エンジニアは嫌な奴が多い」と思われてしまうこともあります。
しかしエンジニアであれば、物事をよくするために従来の「当たり前」「常識」を疑問視することは非常に重要です。問題を解決するためにはふたつの重要な要素があります。
- 解決する意志がある
- 解決が可能である
解決する意志があるなら、問題に気がつくことです。さらには、少しでも良い方向に近づくのです。
もうひとつの、解決が可能であることも重要です。エンジニアは、不可能と思われていたことを可能にしていく姿勢が大切です。それでも、解決できないことはたくさんあります。解決するためには、実現できるかどうかも大きく関わってきます。
帰納的アプローチと演繹的アプローチ
次に問題解決のアプローチを紹介します。どのようにアプローチするかも重要です。まずは帰納的アプローチと演繹的アプローチを考えてみましょう。
帰納的アプローチ
帰納的アプローチとは、目の前にある事柄を問題点と捕らえ、それを他にも応用する考え方です。
つまり、二段階の問題解決アプローチですね。
例えば、自分が担当しているプログラムが特定の条件でクラッシュしたとします。試行錯誤の末に空文字入力で不具合が発生することがわかりました。次に、他の無効な入力(特殊文字など)でも同じ現象が起こることに気づきました。対策をして問題を解決しました。
同様の現象が他の担当者のプログラムで発生した時、空文字入力→他の無効な入力をさせてみます。自分が解決した事例を、他の担当者にもやってもらうと早く解決に至ります。
このように、個々の事例から共通の法則を見つけるのが帰納的アプローチです。帰納的アプローチは、改善提案の際によく使われます。いわゆるボトムアップの問題解決方法であることが多いです。
演繹的アプローチ
演繹的アプローチとは普遍的あるいは一般的な理論を前提にして、個々の事実や特殊な問題を解明していきます。簡単に言うと「大前提をひっくり返して、個々が抱えている問題を一気に解決する」方法です。例えば、次のような問題があったとします。
オフィスで仕事をしているけれど、空調にムラがあったり、騒音が大きかったりで、メンバーの仕事がはかどりません。個々のメンバーは不満を抱えつつも仕事をしています。ある日、社長の鶴の一声でスマートオフィスに引っ越すこととなりました。これにより仕事環境は改善し、個々の不満もなくなりました。
演繹的アプローチは、責任者あるいは予算権限のある人が全体を一気に変えるやり方として採用されることが多く、いわゆるトップダウンの問題解決手法といえます。
これらふたつのアプローチは、問題発見・解決が下から上に向かうのか、上から下に向かうのかの違いがあります。
定性的アプローチと定量的アプローチ
違う視点から問題点の発見を考えてみましょう。定性的アプローチと定量的アプローチですね。
定性的アプローチ
定性的アプローチとは、対象の状態を不連続な性質の変化に注目してとらえることです。表現される言葉は、抽象的になりがちです。
定量的アプローチ
定量的アプローチとは成分物質の量を定めます。それが転じて、対象の状態を数値の変化に注目してとらえることも意味します。一般に、定性的よりも定量的のほうが明確で、わかりやすいと考えられています。
定性的と定量的の例
例えば、いちごの甘さを考えてみましょう。定性的表現では「このいちご、めっちゃ甘い」という表現をします。定量的表現では「このいちごの糖度は15だ」という表現をします。
どちらの表現がわかりやすいでしょうか?
糖度の知識がなければ、糖度15が甘いかどうかは不明です。「めっちゃ甘い」と言われたら、感情にうったえてきませんか?定量的表現が優れていると考える方もいますが、必ずしもそうではありませんね。
たしかに定量的に数値化すると具体的で、根拠の説明が明確です。しかし、多数決やアンケート(選択式)などの定量的アプローチでは、重要な問題が見落とされることもあります。個人による発言や行動など、数量や割合では表現できないところに、重要な問題が潜んでいることもあるでしょう。
エンジニアとしては、定性・定量両方のアプローチで問題点を把握する必要があります。
エンジニアのための問題解決のステップ
ここからは、エンジニアのための問題解決ステップを説明しましょう。問題点を発見し、解決するために流れとしては以下の3つの要素を考えてみます。
- 着眼点の変化(ビューポイント)
- 「とらわれ」からの解放(ブレインストーミング)
- 論理的思考(ロジカルシンキング)の活用
着眼点の変化
普段通りに生活していては問題を発見できません。問題を発見するためには、普段とは異なるものの見方が必要です。すなわち、まずは着眼点(ビューポイント)を変えてみましょう。
「とらわれ」からの開放
思い込み、きめつけ、そんな気持ちは思考を縛ります。良い、悪いといった固定観念や社会通念もしばらく横に置きましょう。ブレインストーミングを使って、問題発見のアイディアを出します。
「とらわれ」からの開放は、問題発見にも役に立つと同時に、問題解決にも活用できます。ブレインストーミングで問題解決のためのアイディアを出していきます。
論理的思考の活用
出てきたアイディアを実現化するのが論理的思考です。論理的に少しでも破綻があると実現はできません。解決するためには、辻褄が合うことが必要です。
着眼点(ビューポイント)を変えて問題発見
普段は問題と思っていない事柄でも、それを問題と扱えば問題です。
あなたの身の回りのさまざまな道具に不満はありませんか?使っていてちょっとでも不満があったり、イライラしたり、そんなことはありませんか?
ここからは、例を交えて説明していきます。
普段は見ない方向から問題発見
普段は見ない方向から問題を発見します。つまり、視点を変えて「ツッコミ」を入れます。「当たり前」「いつもどおり」「以前からやっている」をやめると、身の回りはすべて問題点になります。
【例】
あなたは液晶ディスプレイの開発者だとします。あなたが今見ている画面に不満はありませんか?
エンジニアはえてして、開発者の立場で物事を考えがちです。
子供やお年寄り、外国人、異性、障害のある人の立場で画面を見てみたらどうでしょうか?他の職種や他の業種だったらどうかなど、様々な立場が考えられます。
こんな具合に、視点や立場を変えていちゃもんをつけるように心がけます。
無理難題でも押し付ける
無理難題を押し付けるとは「無茶ぶり」です。
無茶ぶりをされると困りますが、今回は無茶ぶりをする側です。無茶ぶりをし続けるのは、かなり大変だと気が付くでしょう。
【例】液晶ディスプレイの問題を出すように言われて、思いつかなくなると、到底できそうもないことを言い出す人もいます。
・ディスプレイの裏側から見えない
・上下を逆にしたら、ひっくり返った映像になって困る
・持ち運ぶときはスマホのように小さく、使うときはパソコンのように大きくしてほしい
・画面が故障して、半分しか映らなくても、情報は全部表示してほしい
・ハンカチのようにたたんでポケットに入れたい
・ハンカチのように丸めてポケットに入れたい
・紙のように薄いのがほしい
・落としても水に濡れても使えてほしい
・トイレにだけは絶対に落ちない
かなり無茶だと思いませんか?
しかし、実現していたり、実現しそうだったり、そのような項目も含まれていますよね。無茶ぶりをしても、可能になることもあります。
吹けよ風、呼べよ嵐(ブレインストーミング)
「とらわれ」からの開放として、ブレインストーミングを紹介します。
ブレインは「脳」ストーミングは「嵐」なので、脳の中に嵐を吹き荒れさせる技法です。
ブレインストーミングとは何人かで集まってアイディアを出し合います。複数人で考えて関連した発想の誘発を期待する技法です。
ブレインストーミングでは守るべきポイントがあります。なによりも大切なのは量をたくさん出すことです。どんなに雑で荒っぽい考えでもいいので、次から次にアイディアを出します。その際にメンバーのアイディアをマネしてもいいし、ダブってもかまいません。
とにかく数を稼ぐのが大事です。「実現できるか、できないか」なんて一切考えないようにしましょう。そして他人が出した意見も、できるとかできないとかの批評をせずにどんどんマネして、アイディア出しです。
このようにして、次から次に問題点を発見していきます。
【例】
・画面が明るすぎ、暗すぎる、大きすぎる、小さい⋯
・字が薄くて読みづらい、PC横長、スマホは縦長⋯
・大きくて不要な図が多い、広告が多い、ムダなバナーが多い
問題を出すだけなら、ただのクレーマー
問題点を出すだけで終われば、それはただのクレーマーです。エンジニアはクレーマーで終わってはいけません。ブレインストーミングで発見した様々な問題点から、ターゲットにする項目を絞ります。実現する価値がある問題を発見しましょう。
【例】ここでは、例として「字が薄くて読みづらい」を取り上げます。ホームページやブログで、わざと薄い文字にしている画面を見ませんか?サイトを作る側の勝手なのですが、薄い字は読みづらいものです。
ブレインストーミングで考える
問題を解決し、実現をする際に使用する手法はブレインストーミングです。今回は、実現に向けてのアイディア出しです。前回と同様、まずはどんどんアイディアを出します。すぐにできるかどうかは問題ではありません。
【例】
・薄い文字は自動で濃くする
・作者に濃い文字で書いてもらう
・薄い文字のサイトは一切表示しない
・背景色を変えられるようにする
かなり無茶なアイディアもありますが、この段階ではかまいません。
論理的思考(ロジカルシンキング)で辻褄合わせ
問題解決に向けてのアイディアが出尽くしたら、その中から実現可能な解決策を探します。この際に、なるべく多くの候補を残しておきましょう。アイディアの複合も大切です。
解決する気があるのか?解決できるのか?
問題解決に大切なのは解決する気があることです。それさえあれば、解決できる策は見つかります。あなたの手元にはブレインストーミングで見つかった、膨大な解決策があるはずです。
【例】薄い文字は自動で濃く表示する。
この方法は、液晶開発者が取り組めそうです。
辻褄を合わせて、相手を納得させる
ここで登場するのが、論理的な考え方すなわちロジカルシンキングです。解決策に少しでも論理破綻があれば実現できないので、辻褄を合わせることが大切です。
ここではエンジニアとして考えてみます。試作するときも、製品化するときもロジカルシンキングです。解決に向けた細かな規定は、全て定量的アプローチで行うことで、再現性のある解決策が見つかります。
【例】「薄い文字を濃くする」は、抽象的表現ですね。背景と文字との明度差が7に満たない文字は、自動で7にする。この機能を液晶ディスプレイに搭載すれば、見づらい文字もクリアに見えます。
文字の見えやすさは明度で決まります。明度は色彩学における明るさの指標で、 1.5 から 9.5 までの数値で表現されます。明度差 7 はとても良く見える状態です。
明度差が7以上あれば、くっきり見えますね。もちろん「どのように実現するか?」「新たな問題はでてこないか?」などの検証は必要です。
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まとめ ~いちゃもんを業務につなげるために
今回は、問題発見と解決手法についてひと通り見てきました。さらに実際の例を上げて、問題発見、解決も実行しました。
問題発見解決は、いちゃもんから始まり、最終的にはそのいちゃもんを自分で解決することです。問題解決にあたり「いちゃもん」視点をもつことは、エンジニアとして活躍するための必須スキルといえるのではないでしょうか。
「あるべき姿と現実とのギャップはないか?」「ギャップはどうしたら埋まるか?」と、物事に対して常にいちゃもんを付けられる視点を持ってみましょう。