企業のIT化やDXを支えているのが、情報システム部門です。複数のメンバーによってチーム化されている企業がある一方で、中小企業やスタートアップ企業のなかには、ひとりの担当者がすべてを請け負う「ひとり情シス」状態となっている場合もあります。
この記事ではひとり情シスの基本的な定義や課題、効率化するための具体的な方法などを詳しく解説します。ひとり情シスを任された方や、これから情シス部門を大きくしていきたいとお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。

ひとり情シスとは
ひとり情シスとは、企業内の情報システム関連業務をすべてひとりで担当している状態を指します。もしくは、その担当者自体を指す場合もあります。中小企業やスタートアップ企業で多く見られる形態です。
ひとり情シスの主な業務は以下のとおりです。
- パソコンやサーバー、ネットワークといったITインフラの企画
- ITインフラやシステムの導入から運用・保守
- 社員からの問い合わせに対応するヘルプデスク業務
- ウイルス対策や不正アクセス監視などのセキュリティ対策
ひとり情シスはこれらの業務を単独で担うため、さまざまな課題を抱えがちです。それでも、企業のIT活用が不可欠な現代において、ビジネスを根幹から支えるやりがいのある仕事でもあります。
ゼロ情シスとの違い
「ゼロ情シス」は「ひとり情シス」と言葉としては似ているものの、実態は大きく異なります。ひとり情シスには、情報システム業務を専任で担う担当者が一名いるのに対し、ゼロ情シスには専任の担当者がひとりもいない状況です。
ゼロ情シス状態の企業では、総務や経理などのほかの部署の社員が、本来の業務と兼務してIT関連業務に対応します。そのため、ITに関する専門的な知見にまで手が回らず、トラブル発生時の対応が遅れたり、場当たり的な解決に留まったりしがちです。
ひとり情シスは、専任の担当者がひとりではあるものの、情報システム担当として明確に役割が与えられているため、ITに関する知見の更新やトラブル発生時の対応も、迅速に実行できます。
ひとり情シスの業務範囲
ひとり情シスの業務範囲は、企業のIT関連業務全般に及びます。メンバーの多い企業であれば、複数の担当者がチームで対応するような業務を、ひとりで担わなければなりません。企業活動の継続に欠かせないIT関連業務をひとりで担当するには、全体像の把握が不可欠です。
そこで、ひとり情シスが担うべき業務内容を、代表的な以下の3つカテゴリーに分けて詳しく解説します。
- 社内インフラ管理
- ヘルプデスク対応
- セキュリティ対応
各業務内容について見ていきましょう。
社内インフラ管理
社内インフラ管理は、ひとり情シスの重要な業務のひとつです。主な管理対象は下記のとおりです。
- パソコン
- 社内のネットワークやサーバー
- ソフトウェアのライセンス
社内にあるパソコンを管理するだけでなく、機種選定や導入後の設定、故障時の修理手配までライフサイクル全般の管理も必要です。
ネットワークやサーバーは、設計や構築はもちろん、運用・保守も担当します。障害が発生すれば、業務に影響が出てしまうため、迅速な原因究明と復旧作業が求められます。また、部署や社員の増減に備えて、ソフトウェアのライセンスも管理しなければなりません。適切に管理することで、不正利用のリスクや無駄なコストの発生を防ぎます。
このようにひとり情シスは、企画立案からトラブル対応まで幅広い対応が求められます。
ヘルプデスク対応
社員からのITに関するあらゆる問い合わせに対応するヘルプデスクも、ひとり情シスの主要な業務です。「パソコンが起動しない」「パスワードを忘れた」「特定のソフトウェアの使い方がわからない」といった基本的な質問から、システム障害に関する報告まで、ヘルプデスクに届く内容は多岐にわたります。
問い合わせが多い日には、対応だけで一日が終わってしまい、本来進めるべきインフラ管理やセキュリティ対策といった計画的な業務が滞ってしまうことも少なくありません。社員がスムーズに業務を遂行できるようサポートする役割ではあるものの、コア業務とのバランス調整が課題となります。
丁寧な対応を心がけつつ、いかに効率よく問題を解決するかが腕の見せ所です。
セキュリティ対応
企業の情報を守るセキュリティ対応は、ひとり情シスにとって責任が重く、気の抜けない業務です。具体的な内容は以下のとおりです。
- ウイルス対策ソフトの導入・更新管理
- 不審なメールや不正アクセスの監視
- OSやソフトウェアの脆弱性(セキュリティ上の欠陥)に対応するための修正プログラム(パッチ)の適用
これらの日常的な業務に加え、ウイルス感染や情報漏洩といったセキュリティインシデントが発生した際には、被害の拡大を防ぐための初動対応も行わなければなりません。原因の特定や影響範囲の調査、復旧作業、そして経営層への報告など、やるべき作業は多岐にわたります。
常に最新の脅威に関する情報を収集し、限られたリソースの中で最大限の対策を講じ続けなければなりません。
ひとり情シスの課題
ひとり情シスは、企業のIT業務を一手に引き受ける欠かせない存在です。ひとりで多岐にわたる業務に対応する環境であるがゆえに多くの課題を抱えています。
多くのひとり情シスの担当者が直面する代表的な課題は3つです。単なる悩みとしてではなく、背景にある構造的な問題や、解決策への糸口にも触れながら解説します。
- 対応範囲が広すぎて時間が足りない
- 精神的なプレッシャーや孤独感
- 予算の制約が大きい
それぞれの課題について詳しく見ていきましょう。
対応範囲が広すぎて時間が足りない
ひとり情シスが抱える課題のひとつに、業務範囲が広すぎるがゆえに対応する時間が不足するという点が挙げられます。インフラ管理やヘルプデスク、セキュリティ対策という3つの大きな役割を担うため、日常業務をこなすだけで手一杯になりがちです。
突発的なトラブルや社員からの問い合わせが舞い込めば、計画していた業務は後回しにせざるを得ません。タスクの優先順位付けを迫られる一方で、その判断自体が精神的な負担となり、何から手をつけて良いか分からなくなることもあります。
課題を解決するには、タスクを可視化し全体像を把握しましょう。そのうえで、定型的な業務は自動化したり、外部サービスを活用したりなど、改善策を検討します。
精神的なプレッシャーや孤独感
「IT業務を常にひとりで行わなければならない」という状況は、大きな精神的プレッシャーを伴います。
とくに、システム障害が発生した際の「自分が解決しなければ業務が止まってしまう」という重圧や、高額なIT投資の稟議を上げる際の「この判断は本当に正しいのか」という不安は、ひとり情シス特有のものです。相談できる同僚が社内にいないため、技術的な課題やキャリアについての悩みをひとりで抱え込み、孤独を感じてしまうことも少なくありません。
この状況を乗り越えるためには、他部署の社員との積極的な情報交換が有効です。社外のセミナーやコミュニティに参加して相談できる相手を見つけるのも良いでしょう。信頼できる外部のパートナー企業が見つかれば、精神的な支えとなります。
予算の制約が大きい
情報システム部門は、直接的な利益を生み出すことは少なく、企業内でコストセンターとみなされがちです。そのため、ひとり情シスに割かれる予算は限定的になりがちで、少ない予算でIT環境を維持・向上させていくという難しいミッションをこなさなければなりません。
仮に、最新のセキュリティソフトや高価なサーバーを導入しようとしても、費用対効果を厳しく問われ、承認を得られないケースも少なくないでしょう。
しかし、限られた予算だからこそ、「いかにコストを抑え、最大の効果を出すか」という創意工夫が求められ、スキルアップにつながるというメリットもあります。予算の制約を乗り越えて成果を出せたときの達成感は、次へのモチベーションにつながります。
ひとり情シス企業の割合と実態は?
ひとり情シスは、決して珍しい存在ではありません。2021年に株式会社メタップスが情報システム部門の会社員514名に対して行った調査によると、社内のITインフラ担当者が「1人」であると回答した企業は全体の11.4%にのぼりました。
また、ひとり情シスと回答した人のうち78.0%は従業員数50名以下の企業に所属していますが、中には従業員数「1,001〜5,000名」という大企業も6.8%含まれていました。
さらに当事者の45.7%が「課題を感じている」と回答しています。なかでも「セキュリティ面への不安」(59.3%)、「業務の負荷が大きく、手が回らない」(51.9%)といった回答が上位を占めていました。
ひとり情シスの業務を効率的に回す方法
時間とリソースが限られているひとり情シスが、幅広いIT業務をこなすには、業務を効率化して負担を軽減しなければなりません。
そこで本項では、明日からでも始められる具体的な効率化の手法を4つ紹介します。これらを実践すれば、日々の業務をスムーズにし、より安定したIT環境の構築につながります。
- マニュアル化やテンプレート化の徹底
- IT資産の標準化
- 自動化やスクリプトを活用
- SaaS導入によるアウトソーシング
業務負荷に悩まれている方は、最後までご覧ください。
マニュアル化やテンプレート化の徹底
ひとり情シスの業務を効率化する際に、取り組むべきは「マニュアル化」と「テンプレート化」です。具体的には以下のような内容を文書化しましょう。
- 新しいPCのセットアップ手順
- ソフトウェアのインストール方法
- よくある問い合わせ(FAQ)への回答フロー
マニュアルがあれば、作業の属人化を防ぐことにもつながります。万が一、自身が病気や休暇で不在となっても、ほかの社員がマニュアルを見て一時的な対応をすることが可能になります。また、将来的に新しい担当者が加わった際の引き継ぎ資料としても有効です。
毎回ゼロから手順を思い出す手間を省き、誰が見ても分かる「標準化された手順書」を作成すれば、将来の自分を助けることにつながるのです。
IT資産の標準化
社内で使用するIT資産がバラバラであれば、管理する手間は増えてしまいます。PCの機種やOS、導入するソフトウェアなどは可能な限り統一(標準化)し、管理業務を効率化しましょう。
例えば、PCを同じメーカーに統一すれば、トラブル発生時の対応がスムーズになります。原因の切り分けがしやすくなり、修理用の部品や代替機を準備するのもスムーズです。
ソフトウェア構成の標準化は、セットアップ作業の効率化だけでなく、ライセンス管理の簡素化にもつながります。部署や役職ごとに標準パターンを用意しておけば、それだけ管理コストは削減できます。
IT資産の標準化は、運用管理の手間を減らすための基本戦略と考えましょう。
自動化やスクリプトを活用
日々の業務の中には、手作業で行っている定型的な作業が数多く存在するはずです。以下に具体例を示します。
- 定期的なバックアップの実行
- サーバーのログ収集
- ソフトウェアのインストール
- アカウントの作成・削除
これらの定型的な手作業をバッチファイルやPowerShellなどのスクリプトを使って自動化すれば、作業時間の短縮や人的ミスの防止にもつながります。
スクリプト作成には時間がかかってしまうものの、一度作成してしまえば自動で実行可能です。手作業がなくなることで生まれた時間を、セキュリティ対策の強化や新しいシステムの企画・検討といった、創造的で付加価値の高い業務に振り分けられます。
自動化は、ひとり情シスにとって強力な武器となるのです。
SaaS導入によるアウトソーシング
ひとり情シスだからといって、すべてのIT業務を単独で担う必要はありません。専門的な知識と工数を要するシステムの運用・保守は、SaaSを導入し、外部にアウトソーシングするの方法もあります。
近年では、Microsoft 365やGoogle Workspaceといったクラウドサービスを利用する企業も増えています。サーバーのハードウェア障害やOSのアップデート、セキュリティパッチの適用といった運用業務から解放されるため、本来注力すべき社内業務に集中できます。また、高いレベルでセキュリティや可用性を維持してくれる点も魅力です。
初期投資を抑えつつ、専門家を活用できるSaaSは、ひとり情シスにとって最適な手法といえるでしょう。
ひとり情シスの業務効率化におすすめのツール
ひとり情シスの業務効率化を実現するには、さまざまなツールの活用が不可欠です。とくに、「問い合わせ対応」「定型業務の自動化」「IT資産管理」という課題を解決するためには、すぐにでもツールを採用したいところです。
そこで、ここからはひとり情シスの業務効率化におすすめのツールを3つ紹介します。
- NotePM(社内FAQ・マニュアル)
- ロボパットDX(RPAツール)
- SKYSEA Client View(IT資産管理ツール)
順番に見ていきましょう。
NotePM(社内FAQ・マニュアル)
NotePMは、社員からの問い合わせ対応を効率化するツールです。社内版Wikipediaのように誰でも簡単に情報を書き込み、共有できる点が特徴のナレッジマネジメントツールです。
たとえば、プリンターの設定方法やWi-Fiの接続手順、よくある質問と回答(FAQ)といった情報をNotePMにまとめておけば、社員はまず自分で調べて解決しようとします。情シスへの直接の問い合わせが減り、その分の時間を他の重要な業務に充てることができます。
強力な検索機能やテンプレート機能、更新履歴の管理機能も備わっているため、マニュアルや手順書を一元管理するプラットフォームとしても最適です。情報の属人化を防ぎ、社内全体のITリテラシー向上にもつながります。
NotePM – 社内wiki・ナレッジ共有・マニュアル作成ツール
ロボパットDX(RPAツール)
ロボパットDXは、プログラミングの知識がなくても、PC上の定型的な操作を自動化できるRPA(Robotic Process Automation)ツールです。
たとえば、毎日行っている「特定のWebサイトからデータをダウンロードし、Excelに転記して関係者にメールで送る」といった一連の作業の自動化に威力を発揮します。ロボパットDXに手順を記憶させれば、自動で実行させることが可能です。
現場の担当者が自ら業務を自動化できる「現場主導型」をコンセプトにしており、直感的な操作性が特徴です。ひとり情シス自身の業務はもちろん、他部署の定型業務を自動化できれば、全社的な生産性向上に貢献し、情シス部門の評価向上にもつながります。
RPAツール「Robo-Pat DX」| 業務効率化で残業削減・属人化解消
SKYSEA Client View(IT資産管理ツール)
SKYSEA Client Viewは、IT資産を一元的に管理し、情報セキュリティ対策を強化するためのツールです。ひとり情シスにとって煩雑になりがちな、PCやソフトウェアライセンスの管理を大幅に効率化できます。
どのPCで、どのソフトウェアが、どれくらい使われているかを自動で収集し、一覧で可視化可能です。無駄なソフトウェアライセンスを発見してコストを削減したり、許可なくインストールされたソフトウェアを検知してセキュリティリスクを防いだりできます。
PCの操作ログを取得したり、外部デバイスの使用を制限したりする機能も備えています。IT資産の現状を正確に把握し、セキュリティポリシーを徹底するための心強い味方となるでしょう。
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まとめ
「ひとり情シス」は、企業のITインフラをひとりで支える、まさに縁の下の力持ちです。業務内容は多岐にわたり、時間的・精神的な負担が大きい一方で、企業の根幹を支える非常にやりがいのある仕事でもあります。
重要なのは、全てを抱え込まないことです。マニュアル化や自動化、ツールの活用によって日々の業務を効率化したり、アウトソースを利用したりして、負荷を軽減しましょう。そして、生まれた時間を戦略的で付加価値の高い業務に振り向けて、企業にさらなる成果をもたらすのです。
本記事を参考に、より市場価値の高いひとり情シス担当者を目指しましょう。