AIエンジニアは、今後のIT業界で特に需要が高まる職種の一つです。ChatGPTをはじめとした生成AIの登場や企業のDX化が進む中で、ビジネス課題をAI技術で解決できる人材の重要性はますます高まっています。
本記事では、社内SEやシステムエンジニアの方を対象に、AIエンジニアの仕事内容、必要なスキル、年収、AIエンジニアに向いている人についてわかりやすく解説します。
「今後のキャリアとしてAIに携わってみたい」「AIエンジニアに求められる素養を知りたい」と考えている方は、ぜひ参考にしてください。

AIエンジニアとは
AIエンジニアとは、人工知能(AI)に関する技術を使って、業務の自動化やデータ分析、サービスの高度化を実現するエンジニアのことです。
具体的には、機械学習や深層学習などのアルゴリズムを活用し、企業の課題に対してAIを使ったソリューションを設計・開発・運用する役割を担います。
活躍のフィールドは多岐にわたり、たとえば製造業における需要予測、小売業でのレコメンドエンジン、医療現場での画像診断支援など、さまざまな分野でAIエンジニアの知見が活かされています。
AI技術の発展とともに、AIエンジニアの専門性はより重要視されており、今後ますます需要が高まる職種の一つといえるでしょう。
AIエンジニアの仕事内容
AIエンジニアの主な業務は、AIモデルの設計・開発、データの前処理・整形、そしてデプロイと運用の3つに大別されます。これらの業務をバランスよく遂行できる人材が、実務において高い評価を得ています。
以降ではAIエンジニアの主な業務について説明していきます。
AIモデルの設計・開発
AIエンジニアはビジネス課題に応じたAIモデルの選定から設計・学習・評価までを担当します。精度や汎化性能を意識して、課題に対して最適なアルゴリズムを構築することが求められます。
このプロセスが重要な理由は、ビジネス課題を的確にAIで解決するためには、適切なモデル選択と実装が不可欠だからです。また、学習に必要な特徴量の設計(特徴量エンジニアリング)も非常に重要なステップです。
実際にAutoMLをモデルとして採用したため、予測結果の説明可能性が低く、クライアントのニーズと徐々に乖離が生じ、理解が得られなくなってしまうシステムを筆者自身が経験したことがあります。
データの前処理・整形
AIエンジニアは学習に使うデータのクリーニングや正規化、特徴量の抽出をはじめ、モデルの精度を高めるために、データ理解と加工技術が求められます。
この工程がAIプロジェクトにおいても重要かつ成否を分けることもあります。理由としては、どんなに優れたアルゴリズムやモデルでも、入力データの質が低ければ良い結果は得られないからです。「Garbage In, Garbage Out」という言葉通り、データ前処理はAI開発の基盤となる作業となります。
例えば、顧客の解約予測モデルを開発するケースでは、まず数百の変数から意味のある特徴を抽出することから始めます。AIエンジニアは欠損値の補完方法を複数試し、異常値の検出と処理を丁寧に行い、さらに変数間の相関を分析して冗長な情報を削減します。こうした地道な前処理により、最終的なモデルの精度を向上させ、ビジネス課題をAIで解決していきます。
デプロイと運用
AIエンジニアは学習済みモデルを本番環境へデプロイし、継続的に監視・改善を行います。エラー対応や精度低下の検知、モデル再学習などの運用保守を業務で行う場合もあります。
どれだけ精度の優れたモデルも本番環境で安定して動作しなければ価値を生みません。具体的には以下のようなケースで対応が必要になることがあります。
- デプロイの自動化とバージョン管理
- スケーラビリティやパフォーマンス
- データドリフトやモデル劣化の検知
- 必要に応じたモデル再学習・アップデート
- 障害発生時のロールバックやトラブルシューティング
繰り返しになりますが、AIエンジニアの業務として、開発したAIプロジェクトを開発環境から本番環境に安定してデプロイする仕組みの構築やモデルの監視なども重要な位置づけとなります。
AIエンジニアの平均年収
AIエンジニアは高い専門性が求められる分、報酬も高めの傾向があります。職業情報提供サイト(job tag)によると2023年度のAIエンジニアの平均年収は628.9万円。給与レンジは400万円~1,000万円以上と幅広く、就業先や業務内容、スキルによって大きく差が出る職種です。
こうしたAI領域の報酬感を把握するうえで、フリーランス市場の情報も一つの参考になります。たとえば、アイムファクトリーが保有するフリーランス案件においては、データサイエンティスト・機械学習エンジニアの平均単価が月95万円、最大で月222万円となっており、年換算すれば1,000万円を超える水準も視野に入ります。(2025年5月時点)
もちろん、フリーランスと会社員では働き方や報酬体系が異なりますが、AIやデータ活用の専門性が市場価値につながりやすいことは共通しています。社内SEとしても、AI関連の業務や社内データ活用の推進に携わる機会が増えており、スキルの幅を広げることで、今後のキャリアに選択肢を持たせることができそうです。
AIエンジニアに必要なスキル
本章ではAIエンジニアに必要なスキルについて紹介していきます。エンジニアとして前提となる幅広い知識を持ち合わせていることに加え、AIエンジニアとして活躍するためには、プログラミングスキルや機械学習/深層学習、MLOps/DevOpsに対してより深い知識が必要です。
プログラミングスキル
AIエンジニアはPythonを中心に、AIモデル構築に必要なライブラリ(PyTorch、TensorFlowなど)やデータ前処理や整形で使用するライブラリ(pandas、polarsなど)の活用スキルが必須です。
理由としては大規模データの処理速度がアルゴリズムで決まることや前処理が適切になされないとAIモデルの結果の信頼性が担保されないことがあげられます。理論を理解していても、効率的なプログラムに落とし込めなければ実用的なシステムは構築できません。
実際にある企業では、スキル向上支援の一環としてデータサイエンティストやAIエンジニアにKaggleというデータ分析コンペへの参加を推奨し、業務時間の何割かをKaggleに当てるという制度を設けています。
機械学習/深層学習の知識
AIエンジニアは分類問題や回帰問題、CNNやRNNなどの基本的なアルゴリズムと最新のAIモデルへの理解が必要であり、理論的な背景を押さえ、課題に応じて手法を柔軟に選べる力が求められます。
理由としては、アルゴリズムは明確な数学的原理に基づいた技術であり、AIモデルも基本的なアルゴリズムが発展して構築された理論だからです。原理を理解していれば、問題が発生した際のトラブルシューティングや既存手法の改良にも対応できます。
実際に AIエンジニアの求人情報では、機械学習や深層学習についての深い知識が必須になっていることが多いです。またモデルの予測結果の解釈を求められる場面においても、基礎知識を理解できていると体系立てて説明することができます。
MLOps/DevOpsの知識
AIエンジニアはモデルを継続的に運用するためのCI/CDやDocker、Kubernetesなどのコンテナ技術の運用スキルが必要となり、モデル開発から運用までのライフサイクル管理全体を業務で任されます。
このスキルセットが求められる理由は、AIモデルを本番環境で安定して動作させ、継続的に価値を提供し続けるためには、堅牢な運用基盤が不可欠だからです。実験段階のモデルと本番稼働するシステムでは、求められる要件が大きく異なります。
実際に少数精鋭のベンチャー企業において、AIエンジニアがモデルの開発から本番環境へのデプロイ、そして本番環境での運用保守まで担う現場を経験したことがあります。
AIエンジニアにおすすめの資格
AIエンジニアとしての専門性を高め、キャリアアップや転職活動での強みとするために、資格の取得は有効な手段です。AI関連の資格は幅広く存在しますが、業務に直結する知識やスキルを証明できるものを選ぶことで、実務力のアピールや信頼性の向上につながります。
G検定、E資格
G検定やE資格はいずれも一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が実施するAI・ディープラーニング分野の民間資格で、G検定はディープラーニングを中心にAI技術を「ビジネスで活用するための知識」を問う検定です。
E資格はディープラーニングの理論を理解し、適切な手法で実装できるエンジニアのスキルを証明する資格で、G検定より上級者向けの資格となっています。
G検定とE資格はAIの全体像を体系的に理解できるだけでなく、日本国内で広く認知されている資格であり、G検定はAIについて0からキャッチアップする際に、E資格はある程度経験を積んだ状態から更にステップアップする際に活用される事が多いです。
以下がG検定とE資格についての早見表です。
項目 | G検定 | E資格 |
---|---|---|
対象 | ビジネスパーソン・初級・中級 | AIエンジニア・データサイエンティスト |
受験資格 | なし | JDLA認定プログラム修了が必要 |
試験内容 | ML・DLの基礎知識・活用方針 | 理論・実装・応用数学・開発環境 |
問題数 | 約160問 | 約100問 |
試験時間 | 120分 | 120分 |
合格率 | 65〜70% | 65%前後 |
難易度 | 基礎〜中級 | 中級〜上級 |
受験メリット | AI活用知識の証明キャリアアップ | 実装力の証明エンジニアのキャリア強化 |
AWS Certified Machine Learning – Specialty
AWS Certified Machine Learning – Specialtyは、AWSで機械学習や深層学習モデルの構築、トレーニング、チューニング、デプロイに関する専門知識を証明する資格です。
この資格は、AWS上でのMLワークロードの設計・開発・運用に携わるエンジニアやデータサイエンティストに特におすすめです。受験者には、AWS上でのML/深層学習ワークロードの実務経験(推奨2年以上)や、基本的なMLアルゴリズム、ハイパーパラメータ最適化、MLフレームワークの利用経験が求められます。
資格を取得することで、クラウドAIソリューションの設計・実装・運用スキルを公式に証明でき、AIエンジニアとしての市場価値を高めることができます。
【試験概要】
項目 | 内容 |
---|---|
問題数 | 65問(複数選択または複数応答) |
試験時間 | 180分 |
試験方法 | オンラインまたはテストセンター |
言語 | 日本語対応 |
受験費用 | 300USD |
合格基準 | 1,000点満点中750点以上 |
Microsoft Certified: Azure AI Fundamentals
Microsoft Certified: Azure AI Fundamentals(AI-900)は、Microsoft AzureにおけるAIや機械学習の基礎知識を証明する資格です。
Azure上でのAIサービスや機械学習の基本概念、Azure Cognitive Servicesの活用方法などが問われるため、これからAIエンジニアを目指す方やAI技術の基礎を体系的に学びたい方に最適です。
比較的難易度が低く、Azureを活用したAIプロジェクトへの参画やキャリアアップに役立つ資格といえるでしょう。
【試験概要】
項目 | 内容 |
---|---|
問題数 | 40〜60問 |
試験時間 | 45分 |
試験方法 | オンラインまたはテストセンター |
言語 | 日本語対応 |
受験費用 | 12180 JPY(2025年5月時点) |
合格基準 | 1,000点満点中700点以上 |
Professional Machine Learning Engineer
Professional Machine Learning Engineerは、Google Cloudが認定する上級レベルの機械学習エンジニア向け資格です。
この資格では、Google Cloudを活用した機械学習モデルの設計、構築、評価、導入、運用に関するスキルを総合的に問われます。データ分析からモデルの構築、精度検証、本番環境へのデプロイ、運用監視、そしてAI倫理の考慮まで幅広くカバーしており、実践的なMLプロジェクトを主導できるエンジニアに特に適しています。
取得することで、Google CloudベースのAI開発スキルを公式に証明でき、AIエンジニアとしてのキャリア形成において大きな強みとなります。
【試験概要】
項目 | 内容 |
---|---|
問題数 | 50~60問の多肢選択(複数選択)式 |
試験時間 | 120分 |
試験方法 | オンラインまたはテストセンター |
言語 | 英語 |
受験費用 | 200USD(税別) |
合格基準 | 非公開 |
AIエンジニアに向いている人
これまでみてきたようにAIエンジニアには高い専門性が求められます。では、どんな人がこの職種に向いているのでしょうか。AIエンジニアに向いているのは、次のような特性を持つ人です。
新しい技術や論文を追い続けられる
AI分野は日々進化しており、最新技術や研究動向を継続的にキャッチアップできる人が活躍しやすいです。また最先端のモデルを実装する際は英語論文の読解力も必要になります。
理由としては、AIは現在も急速に発展している分野であり、半年前の「最先端」がすでに陳腐化していることも珍しくないからです。好奇心を持って新しい知識を吸収し続けられる人が長期的に活躍できます。
実際に他職種から転職してAIエンジニアとなっている方の中には大学院で、研究や論文読解を経験しているエンジニアが多いように感じます。
数学や論理的思考が得意
AIエンジニアには統計や線形代数、微分積分など数学的素養が必要です。問題解決を論理的に進める力も求められるため、思考力に自信がある人に適しています。
理由としては、前述したようにAIの基礎となる理論がすべて数学に基づいているからです。表面的なPythonライブラリの使い方だけを知っていても、予想外の結果が出た際に原因を特定できず、改善も難しくなります。
筆者のまわりでも他職種からAIエンジニアになる人で活躍しているのは、数学科卒や理系院卒など数学の素養がある方が多く、数学の基礎があるためキャッチアップも速い傾向にあります。
一人でもコツコツと試行錯誤できる
AIエンジニアの業務には特徴量抽出やパラメータ調整など、根気強い作業も多く含まれます。そのため自走力があり、自分で調べて粘り強く取り組める姿勢が強みになります。
AIモデルの開発にはトライアンドエラーの繰り返しが不可欠であり、特徴量を1つずつ増減させながら予測結果を比較したり、ときには特徴量を生成するSQLと向き合ったりすることがあります。
理論通りにうまくいかないことも多く、粘り強く原因を探り、解決策を見つける忍耐力が重要となります。

AIエンジニアの将来性
企業のDX化やデータ利活用が進行している昨今、AIの活用領域は医療、製造、金融など多岐に広がっており、AIエンジニアのニーズは年々増加しています。長期的に見ても高い成長性と安定性があります。
その背景には、AI技術が画像認識・自然言語処理・データ解析にとどまらず、新たな価値創出やビジネスモデルの変革をもたらす中核技術として認識されてきたことがあります。
たとえば、生成AIによるプロダクト開発の加速や、予測モデルを活用した意思決定の高度化など、AIは企業競争力を左右する重要な要素となっています。今後もLLMのような技術の発達とともにAIの活用シーンは広がり続けると考えられるため、AIエンジニアは社会のあらゆる分野で必要とされる存在であり続けるでしょう。
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まとめ
AIエンジニアは、高度な技術力と論理的思考力を武器に、ビジネス課題を解決する価値あるAIソリューションを生み出す職種です。プログラミング、機械学習やMLOpsの知識を基盤に、データ処理や運用スキルを組み合わせることで、多様な業界で活躍できます。
社内SEやシステムエンジニアの経験は、AIエンジニアへのキャリアチェンジにおいて大きな強みとなります。既存システムへの理解や開発プロセスの知識は、実用的なAIソリューションを構築する上で非常に価値があるからです。
本記事を読んでAIエンジニアというキャリアに興味を持たれた方は、まずは情報収集や専門家への相談など、小さな一歩から始めてみるのがおすすめです。将来性と安定性を兼ね備えたAIエンジニアは、今後ますます需要が高まる魅力的な専門職のひとつです。

ライター:R.Kotomo
プロフィール:見習い中のデータエンジニアとして、PythonやSQL、クラウドを日々の業務で扱っています。ITエンジニアが執筆した技術記事から多くを学び、自身の経験も誰かの役に立てたいと考えライターを始めました。データ人材やデータ業界に関する情報を、初心者にもわかりやすくお伝えすることを目指しています。実務に基づいた具体的な内容や、現場で役立つノウハウを共有することで、読者のみなさまに気づきを与えられたらと思います。