データマートとDWHの実践的な違いを現役のデータエンジニアが解説

データマートとDWHの実践的な違いを現役のデータエンジニアが解説

企業のデータ活用が進む中、データアーキテクチャにおいて重要な役割を果たすデータウェアハウス(DWH)とデータマートの違いを正しく理解することは重要です。全社データを網羅的に統合するDWHと、特定部門のニーズに特化したデータマートは、データアーキテクチャの中で相互補完的な役割を担っています。

本記事では、基本概念からデータモデル設計、テーブル設計まで、両者の実践的な違いを現役データエンジニアの視点で解説します。また、社内SEやエンジニアが効果的なデータ環境を構築・運用するためのポイントについても紹介します。

この記事は以下の方におすすめです!

  • データ環境の構築を担う社内SE
  • データアーキテクチャを構造的に理解したいエンジニア

ライター:R.Kotomo

プロフィール:見習い中のデータエンジニアとして、PythonやSQL、クラウドを日々の業務で扱っています。ITエンジニアが執筆した技術記事から多くを学び、自身の経験も誰かの役に立てたいと考えライターを始めました。データ人材やデータ業界に関する情報を、初心者にもわかりやすくお伝えすることを目指しています。実務に基づいた具体的な内容や、現場で役立つノウハウを共有することで、読者のみなさまに気づきを与えられたらと思います。

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ナレッジコラムシリーズ

データマートとは?DWH(データウェアハウス)との関係

データマートとは、特定の部門やユースケースに特化した集計結果を保管するデータベースを指すことが多いです。データマートはエンドユーザーが直接アクセスして分析を行うことを想定した、使いやすく高速に応答する環境として設計されています。

データマートが必要な理由は部門ごとに必要なデータや分析視点が異なるため、それぞれの目的に合わせた最適化が求められるからです。データマートはこの課題を解決し、ユーザーが必要なデータに素早くアクセスできる環境を提供します。

たとえば、マーケティング部門向けに顧客分析データマート、財務部門向けに収益分析データマート、生産管理部門向けに生産効率分析データマートを構築し、ダッシュボードと連携することで指標のモニタリングを実現できます。

繰り返しになりますが、データマートは特定のビジネス領域やユーザーのニーズに合わせて抽出・加工されたデータを格納するデータベースといえます。

DWH(データウェアハウス)とは

データウェアハウス(DWH)は、企業の意思決定を支援するための全社の共通指標となるデータの管理・蓄積を行うデータベースを指すことが多いです。

複数の業務システムから収集したデータを一元管理し、長期間にわたって管理・蓄積します。DWHはデータの統合・蓄積・分析のための基盤となり、組織全体のデータ資産を管理する中核システムと位置づけられます。

DWHが必要とされる理由は、業務システムが部門ごとに独立して構築され、データがサイロ化してしまう問題を解決することや業務システムのデータベースの負荷を気にせず、分析を行うためといったことがあげられます。

たとえば販売管理システム、在庫管理システム、顧客管理システムなど、それぞれが独自のデータベースを持ち連携が取れていない状況では、部門横断的な分析ができません。DWHはこれらのデータを統合し、一貫した形式で保存することで、組織横断的な分析を可能にします。

繰り返しになりますが、DWHは組織全体のデータを網羅的に収集・統合し、多角的な分析と意思決定を支援するためのデータ基盤として、企業の意思決定を支援する役割を担っています。

 データマートとDWHの役割と関係

DWHとデータマートは階層的な関係を持ち、企業のデータアーキテクチャ内で相互補完的な役割を果たします。DWHが全社の共通指標となるデータの保管場所を担う一方、データマートはDWHの下流に位置し、特定目的に最適化されたデータセットを提供します。

全体アーキテクチャとしては、データレイクに蓄積された生データをもとにDWHで統合・整備し、その整備済みデータを用途別に抽出・加工したものがデータマートとして提供されます。これにより、分析用データの整合性を保ちながらも、部門や役割ごとの多様な利用ニーズに応えることができます。

実際にはDWHから抽出・加工したデータを営業やマーケティング部門などでそれぞれのKPIをモニタリングするためのデータマートを作成し、業務改善や収益改善に活かしていくようなユースケースをイメージしていただけるとわかりやすいかと思います。

まとめるとDWHがデータの集中管理と整合性を担保し、データマートが特定用途に特化した分析環境としてユーザーの利便性を高める役割を果たしています。

データの保管範囲と利用目的の違い

DWHとデータマートでは、保管範囲と利用目的にどのような違いがあるのかを見ていきましょう。

DWHのデータ範囲と網羅性

DWHは企業全体のデータを網羅的に収集・統合するデータリポジトリとしての役割も担います。業務システムやECサイトなどの横断的なデータを長期間蓄積し、粒度の細かいデータから集計データまで幅広く保持し、現在の分析ニーズだけでなく将来の利用を見据えた包括的なデータ基盤として機能します。

網羅性が求められる理由は、DWHが組織の「データ資産」を構築するためのものだからです。現時点では使用されていないデータでも、将来的な分析ニーズの変化や新たなビジネス課題に対応するために保持しておくことが重要です。

また、データ間の関連性を見出すためには、できるだけ多くのコンテキスト情報を持っていることが望ましいとされています。

つまりDWHは時系列で長期間のデータを蓄積し、新しいニーズにも対応可能なデータを含めた包括的なデータ基盤であり、企業の持続的な意思決定と成長を支えるデータ資産の集積地と言えます。

データマートの特化領域とターゲットユーザー

データマートは特定のビジネス領域や部門のニーズに特化したデータセットを提供します。DWHから必要なデータのみを抽出・加工し、対象ユーザーの分析要件に最適化された形で構成されます。データマートのスコープは明確に定義され、特定の分析テーマやビジネス要件に焦点を当てています。

理由としては、エンドユーザーの効率的な分析活動をサポートするためです。DWHの複雑なデータモデルをそのまま分析するのは困難であり、目的やビジネス要件に合わせた加工が必要です。また、部門ごとに異なる視点やKPIがあるため、それぞれに最適化されたデータ環境が求められます。

具体例としては、以下のようなデータマートの構築があげられます。

  • マーケティング部門向け:顧客セグメント、購買行動分析、キャンペーン効果測定データ
  • 商品企画部門向け:商品カテゴリ別販売分析、競合分析データ
  • 店舗運営部門向け:店舗パフォーマンス、在庫回転率、人員配置最適化データ

これらのデータマートは、それぞれの部門のアナリストやマネージャーがすぐに活用できるよう、ユースケースに合わせて設計され、複雑なクエリを回避することで、分析者が本質的な業務に集中できるようになっています。

つまり、データマートは「特定ユーザーが特定の目的のために必要なデータ」に焦点を絞り、分析の即時性と使いやすさを重視した設計となっています。

具体的な利用シーンの比較

DWHとデータマートは、実際の業務においては明確に異なる利用シーンで活用されます。DWHは主にデータ統合、長期データ保管、アドホック分析の基盤として機能し、一方でデータマートは日常的な業務分析、ダッシュボード、レポーティングの直接的なデータソースとして活用されています。

このような使い分けが生じる理由は、分析ニーズの緊急性と頻度、必要とされるデータの粒度と範囲、ユーザーのデータリテラシーレベルの違いによるものです。データマートは日常的かつ迅速な意思決定を支援するための環境であるのに対し、DWHはより戦略的で広範な分析の基盤となります。

項目DWHデータマート
典型ユーザーデータサイエンティスト、経営企画、IT部門各部門アナリスト、マネージャー
主な用途長期トレンド分析、アドホック探索定型レポート、ダッシュボード、日次分析
データ粒度生データ~集計データ主に集計・要約データ

結論として、DWHは探索的または横断的な分析と長期データ保管のためのデータベースであるのに対し、データマートは定型的かつ迅速な業務分析と意思決定のためのデータセットという明確な役割の違いがあります。

モデル設計・テーブル設計の実践的な違い

ここで、モデル設計・テーブル設計の実践的な違いをご紹介します。

データモデル設計の違い

DWHとデータマートでは、データモデル設計において根本的な違いがあります。DWHは主に第三正規形やData Vaultといった正規化されたモデルを採用する傾向があるのに対し、データマートは主にスタースキーマやスノーフレークスキーマといった非正規化された次元モデルを採用します。

この設計の違いがデータの保守性、整合性、クエリパフォーマンスに大きく影響します。ただ近年ではスタースキーマやスノーフレークスキーマといった非正規化された次元モデルを採用したディメンショナル・DWHも増えている傾向があります。

このような設計の違いは、両者の主要な目的の違いから生じています。繰り返しになりますが、DWHは長期的なデータ管理やアドホックな分析に柔軟に対応するための設計であるのに対し、データマートはユーザーの分析クエリのパフォーマンスと理解しやすさを優先した設計となっています。

項目DWHデータマート
主なモデル第三正規形、DataVault、(スタースキーマ、スノーフレークスキーマ)スタースキーマ、スノーフレークスキーマ
目的保守性・整合性クエリ性能・分かりやすさ

結論として、DWHではデータの整合性と長期的な保守性を重視した正規化モデルが適している一方、データマートではユーザビリティとパフォーマンスを重視した次元モデルが効果的です。

パフォーマンス・保守性への影響

DWHとデータマートのテーブル設計の違いは、パフォーマンスと保守性に大きな影響を与えます。DWHは大量データの効率的な取り込みと保存に最適化されているため、複雑なクエリのパフォーマンスは劣る傾向があります。

一方、データマートはパーティション分割やマテリアライズドビューを活用するなどしてクエリパフォーマンスを考慮した設計が採用されるため、複雑な分析でも高速なレスポンスが得られます。保守性においても、DWHは構造変更が難しい代わりに一貫性が高く、データマートは変更が容易である反面、整合性維持に注意が必要という特徴があります。

理由としてはDWHはデータの正確性と完全性を担保するためのデータベースとしての特性を持つのに対し、データマートは分析の即時性と柔軟性を提供するためのデータベースとしての特性が強いためです。下記にそれぞれのパフォーマンスと構造変更についてまとめました。

項目DWHデータマート
クエリ応答時間長い(大規模データ向け最適化)短い(クエリ性能重視)
構造変更難しいが整合性が高い容易だが整合性維持に注意

DWHとデータマートはそれぞれの役割に合わせたパフォーマンス最適化戦略が必要であり、バランスの取れたアーキテクチャ設計が全体的なデータ環境の効率性と持続可能性を決定づける要因となります。

エンジニアが押さえるべき導入・運用のポイント

ここでは、エンジニアとして押さえておくべきDWHとデータマートの導入・運用のポイントを見ていきましょう。

要件定義とステークホルダー調整

DWHとデータマートの導入において、要件定義とステークホルダー調整は基盤を構築する上で重要な工程と要素となります。DWHの要件定義では全社的なデータ統合ビジョンと長期的なデータ戦略が中心となるのに対し、データマートの要件定義では特定部門の具体的な分析ニーズとユーザーエクスペリエンスに焦点を当てます。

さらに、ステークホルダーの範囲もDWHでは経営層・IT部門・データ管理者が中心となり、データマートでは現場の分析ユーザーや部門管理者が主要なステークホルダーとなります。

理由としては、DWHが企業全体の共通指標を管理するデータ基盤としての性格を持つのに対し、データマートはビジネスユーザーの具体的な課題解決ツールとしての性格が強いためです。したがって、要件の粒度や優先順位付けの基準も自ずと異なってきます。

項目要件定義のポイント
DWH・データソースの包括的な調査と将来的な拡張性の考慮・データガバナンスポリシーの明確化・SLAの設定
データマート・ユースケースの詳細な把握・具体的なレポート・ダッシュボード要件の定義・データアクセス頻度とレスポンスタイム要件の明確化

DWHとデータマートでは要件定義のアプローチとステークホルダー調整の方法を使い分け、それぞれの目的に最適化した計画を立てることが重要です。

継続的な運用・改善のポイント

DWHを運用するチームには、変更管理の厳格な実施と、データ品質の継続的なモニタリングが求められます。一方で、データマートの運用では、ユーザーフィードバックに基づく迅速な改善と、利用状況の分析によるパフォーマンス最適化が求められます。

なぜならDWHが企業のデータ資産として安定性と信頼性が最優先される一方、データマートはビジネスの変化に合わせて進化し続ける必要があるからです。

項目運用・改善のポイント
DWH・データ品質メトリクスの定義と継続的なモニタリング・スキーマ変更の厳格な変更管理プロセス・クエリパフォーマンスチューニング
データマート・ユーザー満足度調査と定期的なフィードバック・クエリパフォーマンスチューニング・アジャイルな改善サイクルの確立

繰り返しになりますが、DWHは企業のデータ資産として、変更管理の厳格さとデータ品質の安定的な維持が重視され、信頼性の高い運用が求められます。データマートはビジネスの変化に柔軟に対応するため、ユーザーフィードバックを起点とした迅速な改善とパフォーマンス最適化が重要となります。

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まとめ

DWHは企業全体のデータを網羅的に統合・蓄積し、長期的なデータ資産として機能する一方、データマートは特定部門やユースケースに特化した高速な分析環境を提供します。両者は階層的な関係を持ち、データモデル設計では、DWHが正規化モデルで整合性を重視するのに対し、データマートは次元モデルでクエリパフォーマンスを優先します。

また、運用面でもDWHが厳格な変更管理とデータ品質維持を重視するのに対し、データマートはユーザーフィードバックに基づく迅速な改善が求められます。このような特性を踏まえ、両者を適切に連携させることで、データの一貫性を保ちながら各部門の分析ニーズに柔軟に対応できる強固なデータ基盤を構築できます。

データマートとDWHの実践的な違いを現役のデータエンジニアが解説

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