エンジニアとして高い技術力を持っているのに、プロジェクトが思うように進まない。そんなとき、実は“コミュニケーションのちょっとしたズレ”が原因になっていることもあります。
この記事では、エンジニアにとってコミュニケーション力がなぜ必要なのか、そして「伝わる」技術を鍛えるポイントや具体的な伝え方について紹介します。読後には、「自分も磨いてみよう」と前向きな一歩を踏み出せるような内容を目指しました。
この記事は以下の方におすすめです!
- 技術はあるけど、チームでのやり取りに苦手意識がある
- プロジェクトが思うように進まないと感じている
- リーダーやマネージャーを目指している

ライター:firstriver
30年以上の会社生活を経験。家電機器に組み込むマイクロコンピュータのソフトウェアと周辺回路の設計を皮切りに、ソフトウェア開発部門、技術開発部門の開発リーダーやマネージャーに。その後、ケーブルテレビ配信の技術規格策定に携わる。現在は、化学メーカーの情報システム部門で各種システムやツールの導入・運用を担当。
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エンジニアにコミュニケーション能力が必要な理由
今、チーム開発やリモートワークが当たり前となった開発現場では、技術力だけでなく“伝える力”がプロジェクトの成否を左右する場面が増えています。進捗共有、トラブル対応、仕様のすり合わせ、そして上司やクライアントへの説明。実はエンジニアの仕事の多くが、「誰かと情報をやり取りすること」で成り立っているのです。
ここでは、なぜ今エンジニアにコミュニケーション能力が求められるのか、具体的なシーンを交えて解説していきます。
チームメンバーと進捗の共有、認識を合わせる
チーム開発の場合、互いに関係し合いながら動作する機能ブロックを担当し、最終的に1つの製品やサービスとしてまとめ上げていきます。
このため各ブロックの進捗状況に対する認識がずれていると、結合テストや動作確認の計画が簡単に崩れてしまうことがあります。自身の担当する機能ブロックと関連するブロックの準備ができていなければテストができないからです。その結果、プロジェクト全体の開発スケジュールの遅延の原因にもなりかねません。
こうした事態を防ぐために、エンジニアには日頃からチーム内でのこまめな情報共有や、相互理解を深めるためのコミュニケーションが求められます。進捗を報告し合い、互いの状況を把握しておくことは、スムーズな開発の土台になります。
問題発生時のスピーディな報告
開発プロジェクトにおいて技術的な問題が発生した場合には、スピーディな報告が大切です。早く報告すれば、それだけ多くの選択肢を持って対処できる可能性があり、結果として問題の拡大を防ぐことができます。
また、製品やサービスのリリースタイミングに影響が及ぶ可能性があれば、技術的な対応に加えて、同時にビジネス視点での対応が求められるからです。例えば、営業部門や顧客といった関係者に対して、状況をきちんと説明しなければならないケースもあります。
こうした場面で求められるのは、スピード感と正確さを両立した「伝える力」です。技術者であると同時に、関係者への橋渡し役としての視点を持てることが、信頼を築くうえでも大切です。


クライアントとの情報共有
開発を進めるうえで、社内の企画部門や営業、そして社外のクライアントとの情報共有は欠かせません。特にクライアントからは、開発中の製品に対して仕様の変更やスケジュールの調整を求められることもあります。
また、クライアント側も開発の進行状況に合わせて、製品発表の準備や販売計画を立てているケースが多いため、進捗や変更点は早めに伝えておくことが重要です。予定がずれる場合には、できるだけ早くその旨を共有しておくことで、相手もスケジュールを組み直すことができ、大きなトラブルを避けられます。
そのためにもエンジニアには、開発の状況をきちんと整理し、わかりやすく伝える力が求められます。
技術に強いだけでなく、周囲とスムーズに連携できる人が、結果として信頼される存在になります。
プレゼン能力を上げる
社内外のクライアントに対して、自社の製品やサービスを提案し、ビジネスにつなげる場面では、プレゼンの力が求められます。また、自分たちのチームが今後どのような開発計画を進めていくかを説明し、社内で理解と承認を得るためにも、このスキルは欠かせません。
たとえば、社内での開発計画は、会社の事業に貢献するものであると同時に、自分たちの思いを形にしていくプロセスでもあります。その計画を実行に移すには、上司や経営層への説明が必要であり、しっかりと納得してもらえるかどうかが承認を得られるかの分かれ道になります。
このように、プレゼンはエンジニアにとっても大事な場面のひとつです。そしてその土台になるのが、相手に伝わるように話す力=コミュニケーション力。この力を鍛えておくことで、より伝わりやすく、説得力のあるプレゼンができるようになります。
「伝わる」技術を鍛えるポイント
相手にきちんと伝えるためには、ただ話すだけでは足りません。ここでは、日々のやりとりの中で意識したい「伝わる」コミュニケーションのポイントを紹介します。
- 伝えたいことを事前に明確化しておく
- 相手の理解レベルに合わせる
- 相手のことを考える
- 分かりやすい言葉でシンプルに伝える
- 相手の理解を確認しながら話す
- わかりやすい仕様書・ドキュメントを書く
伝えたいことを事前に明確化しておく
相手に伝えたいという気持ちが強いほど、「よく理解してもらいたい」との思いから、説明の途中でいろいろなことが思い浮かび、そのたびに話したい内容が増えてしまうことがあります。その結果、聞いている側は話のポイントが見えにくくなり、理解しづらくなってしまいます。
また、互いに忙しく、普段なかなか会話の機会がない上司やクライアントと話せるチャンスがあると、「この際だから、あの件もついでに話しておこう」と、つい予定外のことまで話そうとしてしまうこともあります。
しかし、一度に多くのことを伝えようとしても、相手の記憶に残るのは限られます。せいぜい2~3点に絞って内容を整理し、あらかじめ何を伝えるのかを明確にしておくことが、相手の理解を得るうえで効果的です。
相手の理解レベルに合わせる
相手に理解してもらうためには、その人がどこまで分かっているかに応じて説明の仕方を変えることが大切です。
例えば、相手がエンジニアであれば、ある程度専門的な表現を使っても通じますし、正確さを重視した説明ができます。
一方で、上司やエンジニアではない相手に話す場合は、技術的な正確さよりも、相手に伝わることを優先し、できるだけ平易な言葉に置き換えて伝える工夫が必要です。
そもそも、話す相手によって「伝える目的」が違うこともあります。たとえばエンジニア同士であれば、「いずれ開発やデバッグの協力をお願いするかもしれないから、状況を把握しておいてほしい」といった目的があります。
一方、上司や非エンジニアの相手には、「こんな大変な状況だけど、納期を守るために頑張っている」ということを共有し、今後支援が必要になったときに、スムーズに協力してもらえるようにするための説明が求められます。
たとえば、目標のスケジュールに間に合わない可能性が出てきたとき。あらかじめプロジェクトの状況を理解してもらっていれば、体制強化の依頼やスケジュール調整といった相談も、通りやすくなります。
相手のことを理解する
相手の仕事に対する日頃の姿勢や行動を理解しておくことは、チームで仕事を進めるうえで大切な視点です。
何か課題が発生したとき、ふだんから相手の考え方や取り組み方を把握していれば、「今起きていることに対して、どう対応しようとしているのか」が見えてくることがあります。事前に相手の対応の方向性が想像できれば、上司や先輩から指示を受けたときに、素早く行動に移すことができるようになります。
また、同僚や部下であれば、「こうしてみたらどう?」と、状況に合ったアドバイスをしやすくなるはずです。一緒に働く相手の立場や特性を理解しておくことは、建設的なやりとりを生み出す土台になります。
分かりやすい言葉でシンプルに伝える
専門用語を避ける、短い文章で話す、具体的な言葉を使う、比喩を交える。こうした工夫によって、伝えたいことをよりわかりやすく、シンプルに伝えることができます。いくつか例を挙げてみましょう。
例1:専門用語を避ける
「このテレビはUIが洗練されていて直感的な操作ができ、ユーザーのUX向上に貢献している。」
このように言われても、専門用語に慣れていない人には意味が伝わりにくいかもしれません。
▼言い換え例
「このテレビは操作がわかりやすくて、使う人にとって新しい体験になる。」
例2:比喩を使う
「クラウドストレージは、ネットワーク上にデータを保存するサービスです。」
この説明も間違ってはいませんが、もう少しイメージしやすくするとこうなります。
▼言い換え例
「クラウドストレージは、インターネット上にある“貸倉庫”のようなものです。」
このように、相手がすっと理解できる言葉を選ぶことが「伝える力」を高めるコツです。


相手の理解を確認しながら話す
社内外の関係者に向けて、開発状況や今後の計画をプレゼンする場面では、「どうすれば伝わるか」を意識して説明することが大切です。しかし、資料をしっかり作り込んだとしても、「自分が理解できているから、相手も理解できるはず」と思い込んで話してしまうと、意外とうまく伝わっていないこともあります。
そんなときは、まず聞いている人の表情を確認しながらプレゼンを進めていくのが基本です。納得しながら聞いてくれているかどうか、ある程度は表情や態度から読み取ることができます。ただ、中には分からなくてもわかったふりをして聞いている人もいるため、それだけでは不十分な場合もあります。そんなときは、話の区切りで質問を投げかけたり、理解度を確認できるタイミングをつくるのも有効です。
ただし、相手や場面に応じてやり方には配慮が必要です。カジュアルなミーティングならフランクに確認しても問題ありませんが、フォーマルな場では控えめな形で確認するなど、状況を見ながら進めましょう。
わかりやすい仕様書・ドキュメントを書く
文章で伝えるときも、「伝わる工夫」が欠かせません。特に仕様書や業務ドキュメントは、多くの人が参照するもの。誰が読んでも分かりやすく、情報が整理されていることが求められます。意識したいポイントは以下の通りです。
想定読者と目的を明確にする
読む人がエンジニアなら専門用語を使っても問題ありませんが、そうでない場合は言葉を選ぶ必要があります。
また、「何のための資料か」を最初に明確にしておくことで、読み手の理解がスムーズになります。
冗長な表現を避ける
冗長な表現を避けて、出来る限りシンプルな表現で説明することに心がけます。どうしても短い文章にならない場合には、文章を分割して短くしましょう。
図や表を使う
文字だけの資料はとっつきにくくなりがちです。構造や流れを伝えるときは、図・表・箇条書きを効果的に使うことで理解しやすくなります。
具体的に記述
抽象的な表現を避けて、できるだけ具体的に記述します。可能であれば具体例も挙げながら説明すると、理解度が深まります。
最新の情報にする
一度作成した文書に対してその後もメンテナンスを行うようにして、常に最新の状態に保つということも大切です。
第三者にチェックしてもらう
文書を作成した当事者ではなかなか気が付かないことでも、第三者にチェックしてもらうことで、適切な指摘を受けることができ、資料としての完成度を上げることができます。
実践!ケース別の伝え方
個々の具体的なシチュエーション例を挙げ、夫々のケースにおいて相手に正確に伝える方法を説明します。
- 仕様変更を伝えるとき
- タスクの進捗報告をするとき
- 技術文書のフィードバックをするとき
仕様変更を伝えるとき
チーム開発では、進行中のプロジェクトに仕様変更が入ることもあります。その影響は大きく、関係するメンバー全員に正確かつ早めに伝えることが重要です。
【伝えるべき内容】
- なぜ仕様変更が必要なのか(背景と目的)
- 何がどのように変わるのか(変更点)
- 各担当への具体的な影響
- スケジュールはどう変わるのか
ポイントは、伝える前に自分の中で内容を整理し、文書にまとめて共有することです。文章に落とし込む過程で矛盾や曖昧な点に気づけることもあります。
そして、何より早めに伝えることが大切です。対応が遅れると、その分だけスケジュールへの影響が大きくなってしまうため、最小限の影響に抑えるためにも、迅速な共有が欠かせません。
タスクの進捗報告をするとき
進捗報告の目的は、「開発が予定通り進んでいるかどうか」をチームや上司に共有することです。特に関心が集まるのは、スケジュールへの影響があるかどうか。単に「順調です」「少し遅れてます」といった口頭報告だけでは、受け手は状況を把握しきれません。
そこで重要になるのが、要点を絞ったシンプルな報告書です。以下のような内容を含めましょう。
【報告するときのポイント】
- 担当しているブロックの進捗状況(計画通り/遅れ気味)
- 遅れている場合、その遅れ具合(例:1週間、2週間など)
- 遅れている理由(技術的課題、人員不足など)
- リカバリープラン(どう巻き返す予定か)
技術文書のフィードバックをするとき
誰かが作成した仕様書や技術ドキュメントをレビューする際は、具体的に、かつ配慮のある伝え方が求められます。
指摘するだけでなく、改善のヒントを添えると相手の受け取り方も変わります。たとえば「ここが分かりづらい」と言うだけでなく、「こう書き直すと伝わりやすくなると思います」といったアドバイスを添えるのが理想です。
ただし、相手がベテランのエンジニアである場合は注意が必要です。長年の経験やこだわりがあるため、細かい表現の指摘はプライドを傷つけてしまうこともあります。
そのようなときは、あえて細部には触れず「文章が全体的に少し長く感じました」「文字量が多くて読みにくく感じたので、図などを入れてもいいかもしれません」といった全体の印象にとどめたフィードバックのほうが、関係性を保ちつつ伝えることができます。
開発業務では、仕様の調整やトラブル対応、関係者とのやり取りなど、スムーズな情報共有が求められる場面が多くあります。だからこそ、技術だけでなく「伝える力」がますます重要になっています。もし今、働き方や職場環境にモヤモヤしているなら、社内SEという選択肢を考えてみるのも一つの手です。
社内SE転職ナビでは、落ち着いた開発環境で働きたい方や、社内外とのコミュニケーションを大切にする企業への転職をサポートしています。現在、公開求人数は5,200件以上(2024年5月時点)、非公開求人数は10,000件以上と選択肢も豊富。さらに、紹介した社内SEの82%が「満足」と回答しており、働きやすさを求めるエンジニアにも好評です。仕様の曖昧さや意思疎通のストレスを減らし、開発に集中できる環境を探しているなら、社内SEという働き方を考えてみませんか?あなたに最適な職場を提案します。
まとめ
この記事では、エンジニアにとってなぜコミュニケーション力が大切なのか、そして「伝わる」技術を鍛えるための具体的なポイントや、実践的な伝え方の例を紹介してきました。
日々の業務を円滑に進めるうえでも、チームで成果を出すためにも、「伝える力」は技術力と並んで大事なスキルです。
小さな意識の積み重ねが、大きな信頼や成果につながっていきます。
この記事が、コミュニケーションを見直すきっかけになれば幸いです。