チームのリーダーにはいくつかのタイプがあります。さまざまな分類方法がありますが、主なものは以下の3つです。
- 独断型
- 分権型
- 調整型
結論として、エンジニアが力を発揮しやすいのは「分権型リーダー」です。権限を移譲するスタイルは、エンジニアに自由と裁量を与え、仕事を進めやすくします。
なぜ、チームにとって分権型リーダーが最適なのか?この記事では、その理由と効果を解き明かしていきます。
この記事は以下の方におすすめです!
・これからリーダーを目指すエンジニアの方
・リーダーシップの基礎を知り、自身の成長に活かしたい人

ライター:青田ちひろ
エンジニア出身のキャリアカウンセラー。理系の大学院修士課程を修了後、電機メーカーに20年以上勤務。職業訓練校にて、求職者ならびに在職者のエンジニアに対して、セミナー講師を務める。エンジニアを取り巻く環境を考慮し、様々な視点からエンジニアとしてのあり方をレクチャーする。キャリアコンサルティング技能士、2級ワープロ技士、表計算技士、色彩検定、色彩講師、アロマテラピーインストラクター等、多彩な技能を持つ。
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リーダーには3つのタイプが存在する
リーダーには独断型、分権型、調整型の3つのタイプが存在します。リーダーやリーダーシップについて、多くの学者がそれぞれの観点からタイプを分類してきました。しかし、これらの多様な理論も、結局は独断型・分権型・調整型の3つに集約されることが分かります。
例えば、ダニエル・ゴールマンの6つのリーダータイプでは、指示命令型やビジョン型は独断型、調整型や民主型は調整型に対応します。また、クルト・レヴィンの専制型・民主型・放任型も、独断型と調整型に分類可能です。
このように、リーダータイプの分類はさまざまですが、本質的にはリーダーがどのように決断し、組織を導くかという3つの軸に収束します。
強烈なカリスマ性を伴う独断型
独断型は言葉のイメージがよくありません。独善的とか独裁などの印象がついて回ります。確かにその通りで、独断型のリーダーは自分で全て決めたがります。
自分に自信があり、他人の意見に左右されず、思ったことを果敢に実行していくのです。何もかも自分で決めるため、責任の重さも感じています。そして、決断することの重要性を誰よりも認識しているのが独断型リーダーです。
独断型リーダーは、その人が優秀であれば最も効果的に機能する組織を作れます。魅力ある人物、すなわちカリスマであれば、多くの人が自然とついていきます。
しかし、一人の力では限界が来ます。成功する独断型リーダーには、必ず優秀な補佐役がいるものです。補佐役のいない独断型リーダーからは、次第に求心力が失われていきます。
大きな組織で権利を移譲できる分権型
強力な独断型リーダーのもとで組織が成長すると、やがて巨大化します。一人の力だけでは組織運営が限界に達し、いくら優秀な補佐役がいても目が届かなくなります。その時、リーダーが行うのが分権です。
優秀な部下に権限を移譲し、運営を任せていくのが分権型リーダーの特徴です。大きな組織では、権限を適切に移譲できる人こそが優秀なリーダーとされています。移譲された部下たちは、それぞれの担当部門で新たなリーダーとなり、さらにその部下に権限を分け与えることで、組織全体が効率よく動きます。
このように権限を移譲できる器量を持つ分権型リーダーは、ある意味では独断型リーダーよりも大人物といえるでしょう。
メンバーの話をよく聞く調整型
分権型も上意下達という点では独断型と同じです。組織運営は上からの命令に依存しますが、その命令が滞ると、運営に支障が出ることがあります。また、現場の意見を取り入れることが少ないため、組織内で頻発するトラブルに対処しづらい場合もあります。
そこで重要になるのが調整型リーダーです。調整型リーダーは、組織内外のさまざまな意見を聞き、バランスを取ってちょうど良い落とし所を見つけます。このタイプのリーダーは、柔軟な対応力で組織内の問題を解決しやすいのが特徴です。
しかし、調整ばかりしていると、リーダーとしての強さが感じられず、周囲から物足りないと思われることがあります。本人がどれだけ優秀でも、「ついて行きたい」と思う気持ちが薄れてしまう可能性がある点が課題です。
エンジニアにとって理想のリーダーとは?
エンジニアにとって、どのようなリーダーが適切なのでしょうか?
また、エンジニア自身がリーダーになる場合、どのタイプがふさわしいのでしょうか?
ここでは、この2つの視点について考えてみます。
エンジニアが望むリーダー像
エンジニアが望むリーダー像とは、エンジニアリングの仕事を理解している人ではないでしょうか。できれば現役のエンジニア、またはエンジニアとしての経験がある人が理想です。
自分の仕事を正しく評価してくれるのは、その価値を理解しているリーダーです。エンジニアでないリーダーには、仕事の内容や価値を十分に理解してもらえないことが多いのです。
このようなリーダーは、調整型に該当します。組織の状況に応じた柔軟な対応力を持ちながら、エンジニアリングに関する知識を併せ持つ調整型リーダーは、多くのエンジニアにとって頼もしい存在となるでしょう。
最適なリーダーは分権型
エンジニアの実力が上がってくると、調整型リーダーでは物足りなくなることがあります。より大きな裁量を求め、自分に仕事を任せてくれるリーダーを望むようになるのです。そのため、分権型リーダーが理想的といえるでしょう。
これは、エンジニア自身がリーダーになった場合も同じです。リーダーとしては、何も指示をしなくても安心して仕事を任せられるエンジニアが最も頼りになります。こうした環境を作るには、分権型のスタイルが最適です。
分権型リーダーは、エンジニアの自由度を高めるだけでなく、チーム全体の生産性と満足度を引き上げます。そのため、分権型こそエンジニアの理想のリーダータイプと言えるでしょう。
歴史に名を残すリーダーたち
ここまで、リーダーには独断型、分権型、調整型の3つのタイプがあるとお伝えしました。実際の人物に当てはめて考えると、これらのリーダータイプがどのように機能したのかが分かります。現代の人物ではいろいろと問題もあるでしょうから、今回は、戦国時代の三傑を例に挙げて解説します。
意外と分権型の信長、芯から調整型の家康
織田信長は、独断的リーダーの典型とされていますが、それは初期の話です。岐阜や京都を手に入れ、安土城を築いた後の信長は、むしろ分権型リーダーとして振る舞っていました。
信長は本州中央の広大な領地を支配するため、方面軍を組織し、大きな権限を軍団長に移譲しました。たとえば、北陸には柴田勝家、中国には羽柴秀吉、関東には滝川一益、機内には明智光秀を配置しています。この分権体制により、信長は天下統一の一歩手前まで到達しました。
一方、徳川家康は終始調整型リーダーでした。家康は本多正信を補佐役とし、徳川家臣団の意見をよく聞いて組織をまとめました。また、豊臣恩顧の武将たちを次々と配下に加え、関ヶ原の戦い後も調整型の手法を崩さず、豊臣家の滅亡後までそのスタイルを貫きました。家康が築いた徳川幕府は、長く機能する分権型の組織として知られています。
独断型は成功者も失敗者も多数、カギは補佐役
豊臣秀吉は、分権型リーダーだった信長の軍団長の一人でした。本能寺の変を受け、機内に戻って明智光秀を討ち、織田家の後継者として台頭しました。
天下統一後の秀吉は、独断型リーダーとして力を発揮しましたが、それには限界がありました。特に、三人の優秀な補佐役(千利休、弟の秀長、黒田官兵衛)が次々といなくなったことが、政権の弱体化に大きく影響しました。
補佐役を失った秀吉の判断力は鈍り、家臣たちの気持ちは次第に離れていきます。これを狙った家康は、豊臣恩顧の武将たちを取り込み、最終的に豊臣政権を崩壊させました。
独断型リーダーが成功するには、優秀な補佐役が必要不可欠です。補佐役がいない場合、独断型リーダーは組織を長続きさせることが難しいと言えるでしょう。
時代が求めるリーダータイプ
リーダーシップには時代ごとに求められるスタイルがあります。一時は調整型リーダーが評価されていましたが、近年では再び独断型リーダーが注目されています。強力なリーダーシップが必要とされる場面が増えたことが背景にあります。
しかし、エンジニアチームではこの流れに乗る必要はありません。分権型リーダーこそが、エンジニアにとって理想的な環境を提供します。個々の専門性を尊重し、仕事を任せることで、エンジニアは自発的に動き、チームの成果を引き上げます。
まとめ
エンジニアのチームにおける理想のリーダータイプは、明確に「分権型リーダー」といえます。裁量を与え、責任を共有するスタイルは、エンジニアの能力を最大限に引き出し、組織全体のパフォーマンスを向上させます。現代の社会や組織の流行に惑わされず、エンジニアの特性に最適化されたリーダーシップを選択することが、成功への鍵となるでしょう。