エンジニアは、専門的な用語を使うことが多い職種です。仕事ではそれが有効な場面も多いですが、相手が技術に詳しくない場合や専門分野が異なるエンジニア同士では、意図が正確に伝わらないこともあります。曖昧なやり取りは、トラブルやミスの原因になりかねません。
この記事では、エンジニアが注意すべきコミュニケーションのポイントと、その改善方法についてお伝えします。
この記事は以下の方におすすめです!
・意図が伝わらないことがあるエンジニア
・コミュニケーションに苦手意識のあるエンジニア
・コミュニケーション能力を高めたいエンジニア
ライター:青田ちひろ
エンジニア出身のキャリアカウンセラー。理系の大学院修士課程を修了後、電機メーカーに20年以上勤務。職業訓練校にて、求職者ならびに在職者のエンジニアに対して、セミナー講師を務める。エンジニアを取り巻く環境を考慮し、様々な視点からエンジニアとしてのあり方をレクチャーする。キャリアコンサルティング技能士、2級ワープロ技士、表計算技士、色彩検定、色彩講師、アロマテラピーインストラクター等、多彩な技能を持つ。
ナレッジコラムシリーズ
コミュニケーションをシンプルにとらえよう
「コミュニケーションは難しい」と感じる人も多いようです。あなたはどうでしょう?実は、コミュニケーションそのものはシンプルです。要素は2つしかありません。
- 相手の言うことを理解する
- 相手の質問に答える
これを裏返せば、こうなります。
- 自分の言いたいことを正しく伝える
- 適切な質問をする
意外とシンプルですよね。この「簡単」とは、イージー(容易)ではなく、シンプル(単純)という意味です。
効率の良いコミュニケーション上達法
ここで、効率の良いコミュニケーション上達法をご紹介します。
- 敬語
- ビジネス用語・略語
- 質問力
- 一般用語と技術用語
- 婉曲表現
- 断定表現
- 事実と意図を分けて伝える
一つずつ理解し、実践していくことで、コミュニケーション力を強化できます。
敬語は二種類だけ!簡単に覚えられるコツ
コミュニケーションが上手だと思われたいなら、近道があります。それは 敬語 をマスターすることです。敬語を使いこなせる人は、礼儀正しい印象を与え、会話もスムーズに進みます。
敬語が苦手な人もいるかもしれませんが、実は考え方はシンプルです。敬語は2種類しかありません。
敬語の種類 | 使い方のポイント | 例 |
---|---|---|
尊敬語 | 相手の行動や状態を敬うときに使う | いらっしゃる/おっしゃる |
謙譲語 | 自分の行動を控えめに表現するときに使う | 伺う/申し上げる |
丁寧語のことも気になるでしょうが「です」「ます」には敬意は入っていません。丁寧に述べているだけですので今回は対象にしません。
敬語を覚えるコツは、馴染みのある言葉に例を当てはめて覚えることです。日常の場面をイメージして、具体的な例文で覚えましょう。
例:
「部長が会議に来る」 → 「部長が会議にいらっしゃる」
「私が部長に報告する」 → 「私が部長に伺う」
自分の行動には謙譲語、相手の行動には尊敬語を使うと覚えやすくなります。
それではここでちょっとだけ考えてみましょう。以下の空欄にはどんな言葉が入るでしょうか?できれば言い換える言葉を探してみましょう。
答えは次のとおりです。
尊敬語は「相手が~する」、謙譲語は「自分が~する」と考えるとわかりやすくなります。
ビジネス用語・略語はバランスに注意する
あなたは、普段使う言葉の意味をすべて正確に理解していますか?あたりまえのことのようですが、意外と自信を持てない人もいるのではないでしょうか。
例えば、次の文章を見てください。
【例文】
AIをアグレッシブかつアトラクティブに活用しアウトプットするアグリーメントが得られた。BtoC戦略でCEOもCSにてアドバンテージにつながると喜んだ。アセスメントでアワードに輝いたが、アナリストはアウトソーシング部分が多くアイデンティティに欠けCSRとしても懸念点が・・・
いかがでしょう。何を伝えたいのか良くわかりませんよね。
このような文章を、読んだり、聞いたりしたことはありませんか?あるいはあなた自身が使うことはありませんか?極端に書いていますが、似たようなことをしてしまうエンジニアはいますよね。上の文章をカタカナと頭文字を日本語に置き換えると次のようになります。
【例文の和訳】
人工知能を積極的かつ魅力的に活用し出力する合意が得られた。消費者との取引戦略で最高経営責任者も顧客満足度にて優位性につながると喜んだ。評価で賞に輝いたが、分析家は外部への業務委託部分が多く存在証明に欠け企業の社会的責任としても懸念点が…
これもまたわかりにくいですよね。カタカナや略語をまったく使わないと逆に伝わりづらくなることもあります。
重要なのは、適度に使いながら、自分の言葉の意味を正確に理解していること。うろ覚えで使うと、不要な誤解を招いてしまいます。
質問力を上げる
コミュニケーションで大切なのは、自分の意思を正確に伝えることと、相手の質問にきちんと答えることです。また、相手に質問をする場合も、適切な言葉を選ぶ必要があります。相手が知らない言葉を使えば、十分な答えは返ってきません。
質問には2種類があります。
クローズドクエスチョン(簡潔に答えられる質問)
「はい」「いいえ」「わかりません」のように、簡潔な答えを求める質問です。確認や事実関係をはっきりさせたい場面で有効です。
例:今、そちらは雨が降っていますか?
「イエス」か「ノー」で答えられますよね。答えるのは簡単ですが、話が広がりにくい場合があります。
開かれた質問は、いわゆる5W1H の質問です。
オープンクエスチョン(自由な回答を引き出す質問)
5W1H(何、誰、どこ、いつ、なぜ、どのように)を活用した質問です。相手の考えや詳細な情報を引き出すのに適しています。
例:「今の天気はどうですか?」
回答は「晴れています」「風が冷たいです」「夕方から雨が降るそうです」など、幅広く返ってくる可能性があります。オープンクエスチョンは会話を広げるきっかけになる一方で、回答者に負担をかける場合もあります。
使い分けの例としては、まず「現在のコードにエラーはありませんか?」というクローズドクエスチョンで簡単に確認し、その後「エラーが発生する条件を教えていただけますか?」というオープンクエスチョンで詳細を掘り下げると、スムーズにコミュニケーションを進められます。
クローズドクエスチョンは、手早く確認を取るのに役立ちます。一方、オープンクエスチョンは、相手の考えや詳しい情報を引き出すのに向いています。どちらを使うべきかは状況次第ですが、それぞれの特徴を理解して使い分ければ、会話がスムーズに進みやすくなります。
一般用語と技術用語の違いを理解しておく
技術の世界では、一般用語と技術用語で同じ言葉でも意味が大きく異なることがあります。これが原因で、技術者と技術に詳しくない人の間で誤解が生じることも少なくありません。
【言葉の違いによる誤解の例】
用語 | 一般用語 | 技術用語 |
---|---|---|
コンテキスト | 文脈や状況という意味で使われることが多い。 | プログラムやシステム内で特定のタスクや処理の状態を保持する環境情報。 |
バッファ | 曖昧な緩衝地帯や余裕のこと(例:時間のバッファ) | データを一時的に格納する記憶領域。 |
トランザクション | ビジネスの取引や契約を指す言葉。 | データベース処理の一連の操作を指し、一貫性を保証するもの。 |
ハンドシェイク | 握手の意味で使われることがほとんど。 | 通信開始時の接続確認処理。 |
スレッド | 糸や議論の流れを指す | プログラム内で並列処理を行う単位。 |
このように、技術用語の感覚で言葉を使うと、相手が全く別の意味に解釈する可能性があります。話す相手の知識や背景を考慮した言葉選びが重要です。
誤解を避けるために
技術用語は、業界内では当たり前のように使われていますが、一般の人には馴染みのない場合が多いものです。以下のように補足を加えることで、誤解を防ぐことができます。
- 「スレッドを増やしました」 → 「同時に処理できる作業の数を増やしました」
- 「ハンドシェイクに問題があります」 → 「通信を開始する際の接続確認に失敗しています」
婉曲表現を使いこなす
現代は婉曲表現の時代です。言葉を発する際に、はっきりと断定することなく柔らかい表現をします。配慮に欠ける言葉は、誤解や反発を招く原因となることがあるからです。意見を押しつけず、相手の考えや感情に寄り添うための手段として機能しています。
婉曲表現の特徴
婉曲表現には、相手への配慮やニュアンスを含めるためのさまざまな工夫があります。たとえば以下のようなものが挙げられます。
断定を避ける表現:「~かもしれません」「~のように思います」
→ 明確な意見を柔らかく伝えることで、相手に考える余地を与えます。
間接的な提案:「~してみてはどうでしょう」「ご検討いただければ幸いです」
→ 指示ではなく提案として伝えることで、押しつけを防ぎます。
慎重な言い回し:「~かもしれないのですが」「~ということもありえます」
→ 意見や情報が確定していない場合の配慮として使います。
「とか」「だったり」は婉曲表現の一部
「とか」「だったり」といった言葉は、具体的な内容を少し曖昧にしたり、複数の可能性を示したりするための表現です。これも婉曲表現の一種といえます。
例:「夏は暑かったりして過ごしにくいことがあります。」
この表現は、「夏は暑くて過ごしにくい」という断定的な言い方を和らげています。これらを多用すると、文章や話がまどろっこしくなり、意図が伝わりにくくなる場合があります。
婉曲表現を使いすぎると、相手に不明確な印象を与えることがあります。たとえば、「~のような気がしないでもない」という言い回しでは、何を伝えたいのかが曖昧になります。一方で、全く使わないと、断定的で冷たい印象を与える場合も。
適切なバランスを保つには、自分が伝えたいことの「強調すべき部分」と「配慮すべき部分」を整理することが大切です。
エンジニアは時として断定すべきです!
エンジニアも日常会話では婉曲表現を使うことが多いでしょう。婉曲表現がないと、きつい感じがします。エンジニアだって嫌われたくはないので婉曲表現を使いたいですよね。
しかしエンジニアは時として断定が必要です。特に技術的な報告や説明を行う際には、曖昧な表現を避け、明確に断定することが求められます。
例:
断定表現:測定環境の温度は25℃です。
婉曲表現:測定環境の温度はおよそ25度ぐらいだと思われます。
測定結果や技術的なデータは再現性が重要なため、婉曲表現を避けるべきです。また、「℃」などの単位をはっきりと記載することも大切です。「度」だけでは、摂氏(℃)、華氏(°F)、ケルビン(K)などの混乱を招く可能性があります。
エンジニアが曖昧な表現をしてしまうと、状況や意思が不明瞭になり、意思決定に悪影響を与えることがあります。技術的な事実を扱う際には、断定表現を意識しましょう。
事実と意図は分けて伝える
きつい表現ということで、何でも婉曲的にしてしまうと責任の所在もはっきりせず、あらゆる事が曖昧になってしまいます。エンジニアはこれでは困ります。
曖昧さを避けるためには、「事実」と「意図」を分けて表現することが有効です。ここでいう「意図」は「気持ち」や「感想」と捉えてもよいでしょう。
例文:
・室温は25℃で、とても過ごしやすい環境です。
・今日は晴れていて、さわやかです。
ふたつの例文は「事実」と「気持ち」が混在しています。文章の前半は「事実」であり、後半は「気持ち」ですよね。それでは、これを事実と気持ちに分けてみましょう。
例文:
室温は25℃です。多くの人にとって過ごしやすい環境といえます。
今日は晴れています。私はさわやかに感じます。
「事実」を断定し、「気持ち」は婉曲表現を使う。このように使い分けることで、事実に対して明確な断定ができるようになります。エンジニアにとって「事実」を正確に伝えることは非常に重要です。しかし、それだけでは十分ではありません。「気持ち」の部分も丁寧に伝えることで、エンジニアの意見を認めてもらいやすくなるのです。
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まとめ
この記事では、エンジニアが効果的なコミュニケーションを取るための方法をお伝えしました。
エンジニアにとって、正確な「事実」を断定的に伝えることは不可欠です。しかし、「気持ち」や「意図」を伝える際には、柔らかな表現を取り入れることが信頼関係の構築につながります。また、技術用語と一般用語の違いを理解し、相手に合わせた言葉選びをすることで、誤解を防ぐことができます。
適切な敬語の使い方や、質問の仕方を意識するだけでも、コミュニケーション能力は大きく向上します。これらのポイントを実践し、エンジニアとして自分の考えを正確に、そして相手に配慮した形で伝えるスキルを磨いていきましょう。
最後に、この記事で紹介した内容を参考に、ぜひ日々のコミュニケーションに活かしてみてください。