私は家電製品開発におけるソフトウェア開発組織において、ソフトウェアエンジニアをキャリアのスタートとして、その後技術リーダーやマネージャーを経験し、何度かの転職も経験してきました。
そんな私の経験から、ITエンジニアの残業時間が他の職種に比べて多い理由と削減方法について、具体的な方法を説明します。
また、残業時間削減の手段として転職やフリーランスへのキャリアチェンジも提案しています。
この記事は以下の方におすすめです!
・慢性的な長時間労働に悩んでいるエンジニア
・残業時間を減らす具体的な方法を知りたいエンジニア
ライター:firstriver
30年以上の会社生活を経験。家電機器に組み込むマイクロコンピュータのソフトウェアと周辺回路の設計を皮切りに、ソフトウェア開発部門、技術開発部門の開発リーダーやマネージャーに。その後、ケーブルテレビ配信の技術規格策定に携わる。現在は、化学メーカーの情報システム部門で各種システムやツールの導入・運用を担当。
ナレッジコラムシリーズ
ITエンジニアの残業の実体は?
まず、世界における日本の総労働時間の状況と、日本国内におけるITエンジニアの労働時間の実体を説明します。
日本の総労働時間
日本の年間総労働時間は1,611時間であり、世界の中で31位※に位置しています。突出して残業時間が多いというわけではありませんが、欧州諸国とりわけドイツは1,311時間、デンマーク1,380時間、オランダ1,413時間となっており、日本の8~9割程度と結構な開きがあります。
国や企業は「働き方改革」として労働時間の改善等を推進していますが、未だ道半ばの状況と言えるのではないかと考えられます。
※出典:2023年OECD調査結果
ITエンジニアの労働時間
この様な状況の中で、ITエンジニアの労働時間はプロジェクトの推進やトラブル対応に加えクライアントとの折衝などもあり、自ら残業時間をコントロールすることが難しい面があります。
更にこのような状況が常態化している会社もあるため、残業時間が多い傾向にあります。
法令で定められた残業時間
労働基準法では、労働時間は1日8時間、1週間で40時間を超えてはならないと定められています。また、労働時間が 6時間を超える場合は45分以上、 8時間を超える場合は1時間以上 の休憩を与えることが企業に義務付けられています。
さらに、 残業(時間外労働) については「36協定(労働基準法第36条)」で詳細が定められています。2019年の改正により、 残業時間は1か月45時間、1年で720時間が上限 とされ、これを超えることは違法となりました。また、特別な事情があっても、以下のような厳しい条件が課されています。
- 1か月の残業が100時間未満であること
- 連続した2〜6か月の平均残業時間が80時間以内に収まること
これらを守らない場合、企業には 最大で6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 が科される可能性があります。
改正法では、社員の健康管理が重視されており、長時間労働が原因で健康を損ねることを防ぐためのルールが整備されています。企業はこれを遵守することで、働きやすい環境を提供する責任を果たす必要があります。
ITエンジニアの残業が多い理由
ITエンジニアの残業が多い主な理由を4つの視点で説明します。
- 仕事の切れ目がつけにくい
- 課題対応を始めると仕事を終える目途が立たない
- 仕事の納期が厳しい
- 突発対応に追われ本来開発業務が遅れがち
仕事の切れ目がつけにくい
製品開発やシステム開発では、タスクのひとかたまり毎に必要な作業時間が大きいため、日々の単位での作業を考えた場合、どうしても仕事の切れ目が付けにくいものです仕事に対して真剣であればあるほど、長時間労働となってしまいやすいでしょう。
課題対応を始めると仕事を終える目途が立たない
なかでも課題やトラブルの対応は、期限までの時間が少ない中での対応となるケースが多く、課題やトラブルの解消までが仕事の単位となるため、極論「解決するまで帰れない」ケースもあります。
このような状態が続くと、どんどん残業時間が多くなっていきます。
仕事の納期が厳しい
ITエンジニアの多くはクライアントの要求に応えるため、タイトなスケジュールで作業を進めることが多くなります。
仕事の納期は、製品発売のタイミングや顧客との約束により決められているケースがほとんどであり、トラブルなどの突発要因を考慮せずに「すべて順調に開発が進む」ことを前提に開発計画が立てられているケースもあります。
ところが製品開発やシステム開発において、課題やトラブルが発生しないことはまずありえません。その結果、納期を守るために残業でカバーしているというのが実態です。
突発対応に追われて本来の開発業務が遅れやすい
特に開発プロジェクトの後半においては、製品やシステムの設計品質を確認するために様々な試験が行われますが、必ずと言っていいほど問題が発生します。「テスト中に製品が動かなくなった」「ソフトウェアがハングアップした」などのトラブルが日常的に発生します。
このような場合には、納期を守るためにトラブルを解消するまで長時間労働もいとわず対応せざるを得ない状況が続きます。その結果、本来の開発業務は中断せざるを得ないために、その対応時間分だけ開発業務に遅延が生まれ、少しでもこれをキャッチアップするために長時間労働になります。
ITエンジニアの残業を減らす方法
ITエンジニアの残業を減らす5つの方法について説明します。
- 計画的に仕事を進める
- 常に優先順位を考えて仕事を進める
- 安易に仕事を受けない
- 周囲に相談する
- 仕事の見える化
計画的に仕事を進める
仕事を進める場合には、どんな場合においても1年程度先までの長期的な業務計画、1か月程度先までの中期的な計画、1週間単位の短期計画、更に今日の作業内容に至るまで作業計画を立てて進めます。
マクロ的(中・長期的)な視点を持って仕事の計画を立てて進めることで、今週やろうとしていることや今日やろうとしていることが、実はスキップできたり、後回しにしても大勢に影響はないといった判断ができるようになります。
「今月は〇〇タスクに時間がかかりそう」だから、「当初予定していた◎◎タスクは来月以降にシフトして1か月あたりの仕事量を削減しよう」といった仕事のコントロールがしやすくなります。
常に優先順位を考えて仕事を進める
中長期的な視点を持つ上でも重要なポイントですが、タスクを時間軸上に並べることで、「どの仕事を優先すべきか」や「どの仕事を後回しにできるか」といった判断が容易になります。
具体例を挙げてみましょう。
当初、「タスクA⇒タスクB⇒タスクC」 の順で進める計画でした。しかし、タスクを時間軸上に並べたところ、 タスクCが予定の期限に間に合わない 可能性があることが判明。一方で、タスクBの期限には余裕があった ため、タスクAとタスクCの順番を入れ替え、 「タスクA⇒タスクC⇒タスクB」 の順に変更しました。その結果、すべてのタスクを期限内に完了することができました。
このように、ガントチャートなどを活用してタスクを時間軸上に並べることで、スケジュールの見直しや優先順位の再確認が簡単にできるようになります。
安易に仕事を受けない
安易に仕事を受けないというのは、業務を進める中で色んな場合に言えることです。
例えば、製品開発において「〇〇の機能があれば便利だから追加で対応してほしい」などが企画部門や顧客から要望されることがあります。この際に最初に考えなくてはいけないのは、「この対応を行った場合に約束(納期)が守れるか?」ということです。
開発プロジェクトにおいて、最優先すべきことが「納期を守ること」である場合です。その場合、納期が守れなくなるにもかかわらず安請け合いすべきではありません。但し「納期を度外視してでも対応しなければ、製品として成立しない」ということであれば、双方合意の上で対応方法を協議すべきです。
「〇〇の機能があれば便利だから追加で対応してほしい」などが企画部門や顧客側から要望された場合に、開発側から逆提案する方法もあります。
「〇〇の機能を追加で対応することは可能です。しかしそのためには、追加の開発作業が発生するために製品発売を〇か月遅延させる必要があります。ご承諾頂ければ対応いたします」といったように、対応による影響を明確に説明することで、要望の実現がプロジェクト全体に与える影響を相手に理解してもらうことができます。
ただし、この方法が成り立つのは、双方の間に信頼関係がある場合に限られます。信頼関係があるからこそ、厳しい提案であっても真摯に受け止めてもらえるのです。一方で、信頼関係が不足している場合には、相手の納得を得るために、慎重に状況を説明し、代替案を提案する必要があります。
日ごろから信頼関係を構築し、相手の期待や要望に誠実に対応することで、こうした状況にも柔軟に対応できる土壌を作ることが重要です。
周囲に相談する
開発を進めていく中や、トラブル対応を行う中で、どうしても「決められた期限までに対応できそうにない」ことがあります。
「仕事において、求められることは極論、結果のみであり、そのための手段を限定されているわけではない」とは、仕事を進める上でよく言われることです。よって、「自分の力では、どうしても決められた期限内に解決できそうにない」場合「自分で解決する」ことにこだわる必要はなく別の解決方法を取ります。
そのためにます考えるべきことは、「誰に相談すれば解決できそうか」を冷静に考えた上で、速やかに相談します。
技術的なことであれば、その分野を得意とする先輩や同僚が適切かもしれませんし、交渉事であれば、交渉に長けている上司が適切、といった具合に解決すべきトラブルや課題に応じて、適切だと思われる関係者にすぐに相談します。
自分一人で課題対応を行っていると、視野が狭くなったり偏ったりしてしまうこともあります。そんな中で到底思いつかない対応方法を教えてもらえる可能性も期待できます。
更に言うならば、以上のように困ったときに相談できる仲間や先輩、上司を作っておくことが仕事を円滑に進めていくためには大切なことです。そのために、日頃からしっかりとコミュニケーションを取っておくように努めていきましょう。
仕事を見える化する
自分に与えられた仕事をスムーズに進めるためには、困ったときには、前述の通り関係者に相談することが解決の早道になることが多いです。
相談するためには、現状を正確に相手に伝えることが大切です。そのためには、説明文や図表などを活用しながら、理解を助けるための資料を用意しておき、自分の仕事を常に見える化しておくように心がけます。
第三者に理解してもらうために、現状および課題やトラブル内容をまとめるという作業は、自分自身で仕事を整理することで、場合によっては課題解決の糸口を自ら発見できる可能性もあるため大切です。
残業時間の改善が難しいには:転職を検討する
いくら自分で頑張ってもそもそも与えられる仕事量が多すぎて、残業しなければ対応できない状態であった場合どうしようもありません。会社や組織の仕組や風土の問題である場合には、対応にも限界があります。
このような場合、転職は選択肢の1つと考えられます。しかし、「今の会社は残業時間が多すぎてもう限界だから転職しよう」と単純に行動に移すとうまくいくとは限りません。
転職を実行に移す前に、準備すべきことを整理した上で行動に移すことをおすすめします。
転職の事前準備
ITエンジニアの求人は多岐にわたり、公開求人だけでなく転職エージェントが保有する非公開求人も数多く存在します。こうした多くの選択肢から自分に合った求人を見つけるためには、まず転職エージェントへの登録を検討しましょう。
さらに、複数のエージェントに登録することで、より多くの求人情報にアクセスでき、好条件の企業と出会う可能性が高まります。
転職の目的を明確にする
「残業を減らしてプライベートを充実させたい」「家庭の時間を確保したい」など、自分の転職目的を具体的に明確にしておくことが大切です。目的が明確であれば、求人選びの際に判断がブレにくくなり、自分に合った企業を見つけやすくなります。
「残業を減らしたい」という目的がある場合、求人票に記載された残業時間の情報や、転職エージェントを通じて得られる実際の労働環境の情報をしっかり確認しましょう。これにより、入社後のミスマッチを防ぎつつ、自分の目的を実現する転職が可能になります。
自分を知る:スキルと経験の整理
これまでの経験や実績を振り返り、自分が何をどの程度できるのか整理しましょう。このプロセスを通じて、自分にどのような仕事が向いているのか、どのような企業で活躍できるのかが見えてきます。
具体的には以下の点を整理すると良いでしょう:
- これまでのプロジェクトや担当業務
- 成果や達成した目標
- 使用してきた技術やスキルセット
自分をしっかりと理解することで、面接時の自己アピールにも自信が持てるようになります。
相手を知る:企業リサーチの重要性
転職エージェントは、希望条件に合う企業を紹介してくれますが、人任せにせず、入社を希望する企業について自分でも積極的にリサーチすることが重要です。
リサーチの際に注目すべきポイント:
- 企業の事業内容や経営方針
- 社内の雰囲気や働き方
- 評判や口コミサイトの情報
また、わからない点や気になる点があれば、エージェントに問い合わせることも有効です。積極的に情報を集めることで、「こんなはずではなかった」と後悔するリスクを減らせます。
転職活動では、「自分を知る」「相手を知る」 という2つの視点が重要です。これらをしっかりと意識することで、自分の目的に合った企業との出会いをスムーズに進めることができます。
残業時間の改善が難しい場合には:フリーランスへの転身を検討する
働き方を変えるという意味でフリーランスという道もあります。しかしフリーランスの道は一見気楽に見えますが、安定した収入を継続して獲得するためにはしっかりとした準備と心構えが必要です。
ITエンジニアとしてフリーランスの道を選択するためには、少なくとも5年程度以上、会社で同じタイプの実務を経験し、顧客を相手にして仕事を完了させた実績を数多く積んで「○○開発に関しては、多くの経験を積んだので一人でもやっていける」との自信を持っているかが大切なポイントです。
技術面のみならず、自分を上手に顧客に売り込むことが出来ないと仕事の獲得に繋がりません。また顧客から継続して仕事を獲得するためには、顧客とのコミュニケーションが円滑に取れないといけません。
要するにエンジニアであると同時に、営業マンでもないといけないということです。以上の通り一見気楽に見えるフリーランスですが実はかなりハードルは高く、慎重に考える必要があり、十分な事前準備が必要であることを認識しておく必要があります。
社内SEの求人なら社内SE転職ナビ
残業時間を減らすためには複数のアプローチがありますが、それらを試しても思うように削減できない場合、転職も視野に入れて考えてみてください。社内SE転職ナビでは残業の少なさが魅力の求人や、ワークライフバランスに配慮された求人を多数ご用意しています。
非公開求人を含む10,000件以上の豊富な案件から、あなたの経験や希望に合った働き方を一緒に見つけましょう。IT業界16年の実績を持つキャリアアドバイザーが転職活動をしっかりサポートします。次のキャリアに向けて、ぜひご相談ください。
まとめ
今回は、ITエンジニアの残業の実体、残業が多くなる理由について述べ、ITエンジニアが残業時間を減らす方法を説明してきました。
常に仕事は長期的な計画から短期的な計画に至るまでしっかりと立てた上で、仕事に振り回されることなく、自ら仕事が制御できるような姿を目指すことが大切です。
この記事が、読者の皆様の残業時間の削減に貢献でき、ワークライフバランスの改善につながることを切に願っています。