リーダーが組織を引っ張り、発展を遂げる。このように「リーダーシップ」が重要なのは誰もが知るところです。しかし、組織の成果を本当に支えているのは「フォロワーシップ」だということをご存知でしょうか?
リーダーは一人ですが、フォロワーはそれ以外の全員。実に組織の成果の80〜90%がフォロワーシップに依存していると言われています。それほど重要な要素にもかかわらず、フォロワーシップの本質を理解している人は少ないのが現実です。
この記事では、「フォロワーシップとは何か」を紐解き、エンジニアが持つ特性を活かして「調和型フォロワー」を目指す方法を解説します。職場で信頼を得たい、キャリアアップしたいと考えているエンジニアにとって、きっとヒントになる内容です。
この記事は以下の方におすすめです!
・チームの中で自分の役割に悩んでいるエンジニア
・キャリアアップを目指し、職場での信頼と存在感を高めたい方
ライター:青田ちひろ
エンジニア出身のキャリアカウンセラー。理系の大学院修士課程を修了後、電機メーカーに20年以上勤務。職業訓練校にて、求職者ならびに在職者のエンジニアに対して、セミナー講師を務める。エンジニアを取り巻く環境を考慮し、様々な視点からエンジニアとしてのあり方をレクチャーする。キャリアコンサルティング技能士、2級ワープロ技士、表計算技士、色彩検定、色彩講師、アロマテラピーインストラクター等、多彩な技能を持つ。
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リーダーとフォロワーの関係性
まずは、一般的な組織図を見てみましょう。例として挙げているのは会社組織ですが、他の組織もおおむねこのような構造になっています。一時期は、フラット型やマトリックス型といった新しい組織形態が注目を集めていました。
しかし、フラットタイプはリーダーの負荷が大きくなりすぎる、マトリックスタイプは役割や指揮系統が複雑になりがちで、組織全体の動きがわかりにくくなるといった課題があります。
そのため、多くの組織が最終的には階層型(ピラミッド型)を採用しています。階層型組織は、指揮命令系統がはっきりし、役割も把握しやすい組織です。
この階層型におけるリーダーは、組織の頂点に立つ人物、たとえば会社であれば社長にあたります。そして、そのリーダーを支える形で、他の全員がフォロワーという立場になります。そして他の人達は全てフォロワーです。リーダーとフォロワーの役割が明確だからこそ、階層型組織は効率的に機能するといえるでしょう。
フォロワーシップとは
それでは、フォロワーシップとは、一体どのようなものでしょうか?フォロワーシップは「リーダーの言う事を素直に聞いて、リーダーに付いていくこと」と思っている人も多いことでしょう。しかしそうではありません。
本来のフォロワーシップとは、組織のメンバーである自分が、組織の発展のために何をすべきかを把握することです。常に組織の一員であることを認識し、組織のために行動します。時には、組織のためにリーダーに苦言を呈することも必要です。
ここで大切なのは「リーダーのために」ではなく、「組織のために」ということです。
なぜフォロワーシップが重要なのか
リーダーとは「リードする人」、つまり組織のメンバーを導く役割を担う人物です。組織全体を象徴する存在であり、そのリーダーシップが組織の維持と発展に直結します。
一方でフォロワーシップも非常に重要です。組織のメンバーであるフォロワーたちが、リーダーを支え、組織の目標達成に向けて行動することで、全体が機能します。特に階層型の組織では、中間管理職が自部門のリーダーとして振る舞う一方で、組織全体ではフォロワーの役割を果たします。この両面を求められることが中間管理職の特徴です。
カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授によれば、組織の成果の80~90%はフォロワーシップに依存しているといいます。この視点からも、フォロワーの役割が組織全体に与える影響の大きさがわかります。
参考:フォロワーシップ|WEB労政時報
フォロワーシップのタイプと調和型
組織内のメンバーは大きく5つのタイプに分類できます。それぞれの特徴と「調和型」を目指すためのアプローチを簡潔にまとめます。
もしあなたが組織に属しているなら、自分は組織にとってどのような位置づけなのか考えてみるのも良いかもしれません。
まず、図のような座標をイメージしてみましょう。この座標では、メンバーが組織の中でどこに位置するのかを考えるものです。
横軸は積極性を示し、右に行くほど行動力が高いことを意味します。
縦軸は能力を示し、上に行くほど判断力やスキルが高いことを意味します。
フォロワーシップではこの座標に5つのタイプがあると定義しています。5つのタイプとは、具体的には次のとおりです。
受動型: Passive (Sheep) 指示された仕事だけをこなす人
まずは図の左下に位置する「受動型」です。受動型のメンバーは、指示された仕事をそのままこなすだけで、特に批判や提案をすることはありません。指示がなければ自ら進んで行動することも少なく、時には消極的とも見られることがあります。組織に配属されたら、最初はほとんどが受動型ですね。
一部のメンバーは、あえて最低限の仕事だけをこなそうとすることもあります。これが「怠けている」と捉えられることもありますが、本人なりに状況を見極めている場合もあるでしょう。実際に怠ける人も、もちろんいます。
従順型:Conformist (Yes-People) 直属の上司に気に入られたいイエスマン
「イエス・ピープル」と表現されていますが、日本では「イエスマン」として表現されます。
このタイプのメンバーは、リーダーを絶対視し、常にリーダーのために行動します。この場合のリーダーは組織全体のリーダーではなく、直属の上司のことです。あくまで自分のリーダーを中心に考えているのが特徴です。
いつもリーダーに気に入られたいと考えていて、リーダーが批判されたときには弁護することもあります。自分が批判されているのではないのに、弁解するのです。リーダー愛の強い人です。
日本語では「ゴマスリ」と表現されますが、英語では「アップルポリッシュ(Apple Polisher)」という表現が使われます。いずれにしても、従順型のメンバーはリーダーへの忠誠心が強く、その行動は一貫して「リーダーを支えること」に向いています。
実務型:Pragmatics (Survivor) 仕事はできるが責任は避けがち
実務型のメンバーは、仕事の能力が非常に高いのが特徴です。しかし、行動には常に周囲を意識して慎重さが見られ、責任を伴うポジションや表に立つ役割を避ける傾向があります。
「プラグマティックス」という言葉には「実務的」や「実用的」という意味があり、「サバイバー」は「生き残る人」を指します。つまり、実務型の人は責任を取らされるリスクを避けることで、組織内で「生き残る」術を心得ているのです。たとえば、難しい局面では直接的な判断を避け、リスクを回避しながら状況を乗り切ることが多いでしょう。
ただし、誤解しないでほしいのは、実務型は決して仕事ができない人ではありません。むしろ、組織内でのスムーズな業務進行に貢献する能力は高く、必要な場面ではしっかりと結果を出す力を持っています。ただ、燃えるような情熱を表に出すことよりも、現状を見極めて「いかにリスクを回避するか」を優先して行動するのが特徴です。
批評型:Alienated 能力は高いが批判的になりやすい?一匹狼タイプ
仕事もできるし判断力もあるのでアイディアは豊富なのですが、それを上司に伝えることは苦手です。
批評型のメンバーは、高い能力と優れた判断力を持っています。しかし、その反面、物事に対して批判的であることが多く、行動力に欠ける傾向があります。自身を優秀だと信じていることが多く、その自信が時に孤立を招く要因にもなります。
英語の「Alienated」は「疎外された人」という意味ですが、このタイプのメンバーは、自ら距離を取ってしまうために結果的に一匹狼のような存在になりがちです。豊富なアイディアや卓越したスキルを持ちながら、それを上司やチームに伝えるのが苦手なため、組織内でその能力が十分に活かされないことも少なくありません。
調和型:Effective 全体を見渡し、チームのバランスを保つタイプ
調和型のメンバーは、能力・判断力・行動力の3つを兼ね備えた、組織にとって理想的な存在です。全体を見渡してチームのバランスを保つ役割を担い、常に組織全体の利益を考えた行動が取れるのが特徴です。
英語の「Effective」は「効果的であること」を表し、「Exemplary」は「模範的」「立派」といった意味を持ちます。このような調和型の人は、上司に対しても必要であれば直言を辞さず、組織のために意見を述べる勇気を持っています。
ただし、こうした率直な態度が理解されない場合もあります。特に優秀でない上司にとっては、調和型のメンバーの直言が疎ましく思われることもあるかもしれません。それでも調和型は、組織全体の利益を第一に考えて行動します。
組織としては、この調和型のようなメンバーが多いほど、チーム全体の効率と成果が向上するでしょう。組織に属する以上、調和型を目指すことは、個人としても組織としても成長の糧となるはずです。
では、個人にとってフォロワーシップを磨くことにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
調和型を目指すメリット
フォロワーシップを理解し、調和型のフォロワーを目指すことは、単に組織のためだけではなく、自身のキャリアにも大きな利益をもたらします。具体的なメリットを以下に挙げます。
信頼を得られる
調和型は、周囲から「頼れる存在」として認識されます。リーダーやチームメンバーからの信頼が高まり、プロジェクトや重要な役割を任される機会が増えるでしょう。
キャリアアップに繋がる
調和型のフォロワーは、単なる指示待ちではなく、積極的に提案や改善を行う姿勢を持つため、リーダーシップの芽を育てることができます。これにより、リーダーへの昇格や責任あるポジションへの推薦を受けやすくなります。
チーム内での影響力が増す
全体を見渡して行動する調和型は、チームの士気や効率を向上させる役割を担います。その結果、自分の意見や提案が受け入れられやすくなり、より大きな影響力を持つようになります。
問題解決能力が向上する
組織全体の利益を考える調和型は、問題の本質を見極め、建設的な解決策を提案するスキルを自然と養うことができます。このスキルはどの職場でも重宝されます。
働きがいを感じられる
組織やチームに対する貢献度が高まることで、自身の仕事が組織の成功にどう影響しているのかを実感できます。この実感が働きがいやモチベーションにつながります。
フォロワーシップは単にリーダーを支えるだけでなく、自身の成長と成功に直結する重要なスキルです。調和型を目指すことで、組織と個人の両方がより良い方向に進むでしょう。
フォロワーシップの調和型を目指す方法
フォロワーシップの理想形は、メンバー全員が調和型を目指すことです。この状態が実現すれば、組織は一体感を持ち、効率的に前進できるでしょう。ただし、すべてのメンバーがすぐに調和型になれるわけではありません。それでも、目指す方向性を共有することは可能です。
目指せるものとなれるもの
調和型を目指すためには、自身の特性に応じたステップが必要です。従順型、実務型、批評型といったタイプのメンバーも、考え方次第で調和型に近づくことができます。それぞれ、調和型に近づくために必要なことは次のとおりです。
受動型: Passive (Sheep)
主体的に動き、意見を発信する
・自分が組織やプロジェクトにどのように貢献できるかを見つめ直す。
・ 小さな提案やアイデア出しから始め、自分の意見を発信する練習をする。
・自信をつけるために、必要なスキルや知識を学ぶ機会を増やす。
・単なる指示待ちではなく、指示の背景や目的を質問し、理解を深める。
従順型:Conformist (Yes-People)
自分の意見を持ち、批判的に考える。
・与えられた指示やアイデアに対して、「これは最善の方法か?」と問いかける癖をつける。
・自分の価値観や限界を明確にし、必要なら「ノー」と言う勇気を持つ。
・他者から、自分の意見や行動がどう受け取られているかを尋ねる。
・安全な環境で、自分の考えを述べる練習を積む。
実務型:Pragmatics (Survivor)
未来を見据え、リスクを恐れず挑戦する。
・目先の安定だけでなく、未来の成長や組織全体の利益を考慮する。
・リスクを恐れず、新しいプロジェクトやチャレンジに積極的に関わる。
・他者とオープンなコミュニケーションを図り、相互支援の関係を築く。
・自分の役割が組織全体にどう影響するかを意識し、リーダーシップを発揮する場面を増やす。
批評型:Alienated
建設的に考え、信頼を取り戻す。
・組織やプロジェクトのメリットを探し、感謝の気持ちを持つ。
・批判を単なる不満ではなく、改善提案としてまとめ、前向きに伝える。
・周囲と関わり、過去の不満を乗り越えて、新たな信頼関係を築く。
・自分のスキルやキャリアを充実させることに意識を向ける。
エンジニアとして調和型を目指すには
エンジニアが調和型を目指すにはどうすればいいのでしょうか?
実は、フォロワーシップの考え方はエンジニアにとって有利です。なぜなら、エンジニアは自らの技能を通じて組織に大きく貢献できる存在だからです。それがエンジニアの役割とも言えます。
例えば、製品の企画書が提示され、それに基づいて設計を始める場面を考えてみてください。その仕様や設計手法が本当に最適なものなのか、疑問を持つことはありませんか?
企画書の仕様は最善でしょうか?
組織内の開発手法は効率的で効果的ですか?
もっといい方法がないか、常に考えているのがエンジニアではないでしょうか。製品の仕様を見直し、設計手法を改善し、最善の手法を提言する。それらはエンジニアだからこそできる貴重な貢献です。
自分の立ち位置を明確にし、積極的に提案を行うことで、組織に欠かせない存在となれるでしょう。エンジニアはその特性上、フォロワーシップの調和型になりやすい職業です。自らの役割を見極め、調和型のフォロワーを目指してみてください。
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まとめ
フォロワーシップは、組織を支えるだけでなく、自身の成長にも直結するスキルです。
特にエンジニアは、自らの専門知識を活かして、設計や仕様の改善提案などで組織に大きく貢献できます。それが信頼を得て、キャリアアップのチャンスを広げるきっかけになります。また、調和型フォロワーを目指すことで、自分の役割や仕事の意義をより強く実感できるでしょう。
フォロワーシップはリーダーシップに劣るものではなく、むしろ組織における成功を支える中心的な役割を担っています。ぜひ、この考え方を意識して、自分のキャリアに活かしてみてください。